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人気者に好かれた私.1-2 [17才の恋話]

 私の名前は、忍野八海。
 下の名前は決して「はっかい」ではなく、「はつみ」と読んでね。
「はっかい」と読むと「おしのはっかい」になっちゃって、富士山の麓の忍野地域にある八つの小さな沼の「忍野八海」のことになっちゃうから。
 おまけに「はっかい」だと、なんだかまるで『西遊記』に出てくる豚の猪八戒みたいでもあるし。

 もちろん「八海」と書いて「はつみ」と読む私の名前は、私の親が富士山の忍野八海にちなんで付けてくれたものなのだけど。
 その忍野八海は私も子供の頃に、親に連れて行ってもらって見たんだけどさ。
 決して大きくはないのに水が澄んでいて、とても深いところまで覗きこむことのできる沼なんかもあるのよね。
 なんだか沼のほとりにしゃがみこんで見つめていると、あの水の奥深くまで潜っていってみたいなって気になっちゃったっけ。

 でもって私の名前も親が、そんな忍野八海の沼を思って付けてくれたんだって。
 決して大きな存在にはならなくてもいいから、心が奥深くまできれいに澄んだ人でいてほしいという願いを込めて。

 そんな私の親の思いに対しては、私も「いい名前を付けてくれたな」って感謝しているんだけどさあ。
 だけどなんだか「忍野八海の沼と同じで、決して大きな存在にはならなくてもいい」っていう部分だけが見事に実現しちゃったみたいで。
 私ったら高校生になったというのに、まだすごく背も低いし体つきも子供っぽいままなのよね。
 同じ高校一年生でもあの浅木さんみたいに、とっても大人っぽい体つきをしている人もいるっていうのによ。

 はたして私も近いうち、あの浅木さんのように大人びた体になれたりするのかなあ。
 だけど自分の子供っぽい体つきを見るたび「そんなの、とうてい無理そうだ」としか思えなくって。
 だから浅木さんのような人を見ていると、とても羨ましく思えると同時に自分のことが情けなく感じられてきて気持ちが落ちこんじゃうのよね。

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人気者に好かれた私.1-1 [17才の恋話]

(当塾に「17才の恋話」として掲載した私の高校時代の自伝「高校で人気者になる法」は、わりと大勢の皆さんに読んでいただいているようです。
 当塾に掲載された恋話の中で「SEX教習所」と「10年ごしのプロポーズ.8-1」に次いで「高校で人気者になる法」の冒頭が、累積の閲覧数が多かったのです。これを調べた2013年6月末の時点で「高校で人気者になる法」は、まだ掲載されてから1年も経っていなかったのですが。

 この「高校で人気者になる法」は、男性である私の視点で書かれていました。
 しかし「高校で人気者になる法」のヒロインの視点で書かれた「人気者に好かれた私」という作品もあります。
 そこで今回、この「人気者に好かれた私」も当塾に途中まで掲載させていただくことにしました。
 ただし「高校で人気者になる法」が実話だったのに対して、「人気者に好かれた私」はフィクションです。
 女性の登場人物たち同士の会話や心の中の思いは、私には想像で書くしかないからです。
 また、実際には他の年の出来事を高校一年生の時だったことにしてある部分もあります。
 その点は、どうかあらかじめお含みおきください)

 高校で自分と同じクラスに、素敵な男子がいるのかどうか。
 女の子ならもちろん、気になっちゃうわよね。
 だけど、それにしてもよ。
 はたして入学式の当日に、そこまで気が回るかって言われたら――
 少なくとも私には、無理だったみたい。

 クラス分けで自分にわりあてられた一年F組の教室へ入った私は、そこで同じF組になった他の皆とも会ったわけなんだけど。
 でも男子は教室の中で廊下側の席に、そして女子は窓側の席に、それぞれ固まって座っていたからさ。
 なかなか男子たちが座っている方にまで目を向けたりしている余裕は、なかったんだな。

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高校での人気者の一例.3 [17才の恋話]

 でもあれは、高校の二年生だった年の初夏。そんな私の月極君に対する見方を、すっかり塗りかえちゃうようなことがあったんだ。

 私たちがかよっていた高校のすぐそばに、道路に面してびっしりと有刺鉄線がはりめぐらされている場所があってさ。私が学校から自分の家へ帰ろうとして、その有刺鉄線の前の通りを歩いていた時のことなんだけど。なんと有刺鉄線のすぐ脇で、自分の腕に一羽のカラスを抱えた月極君がいたのよ。

 だもんで私は、驚いちゃって。「どうしたの、月極君。そんな、カラスなんて抱えちゃって」と彼に訊いたの。
 そしたら彼は「このカラスが今、ここのところの有刺鉄線に翼がからまっちゃってたからさ。かわいそうに思って、外してやっていたんだよ」と言いながら、何やら自分の片方の手でカラスの翼を押さえてさ。「よっしゃ、これで終わりだ。どうにか、やっと外れたぞ。翼が何か所か有刺鉄線に引っかかっちゃってたから、けっこう大変だったけど」って答えてくれたの。

 でもカラスって近くで見ると、かなり大きいのよね。しかも太くて、いかにも硬そうなくちばしを持っているし。だから私は不安になって「だけどカラスなんて、大丈夫? その大きなくちばしで突つかれたりしたら、痛いんじゃない?」って訊いたんだ。
 そしたら月極君は「心配ないよ、カラスは頭がいいからね。自分が助けてもらっているんだってことは、わかっているはずだもの。なのに自分のことを助けてくれた人を突ついたりなんか、するはずはないさ」って教えてくれて。

 そして月極君は「ほおら、飛んでけ。もう決して、有刺鉄線に止まろうとなんかするんじゃないぞ」と言いながら、そのカラスを空へと放り投げるようにしたの。
 するとカラスは、翼を広げて飛び上がってさ。カア、カアって鳴きながら私たちの頭の上で何回か、輪を描くように飛んだんだ。そしてそれから空へ高く上がって、どこかへ飛んでいっちゃったんだけどね。

「あいつ今、鳴きながら俺たちの頭の上を回るように飛んだだろう。あれはたぶん、助けてもらったお礼を言ったつもりなんだと思うよ」
 月極君ったら、そんなふうに言って目を細めちゃって。カラスが高く飛んでいく姿を、いかにもいとおしげに見つめていたっけ。

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高校での人気者の一例.2 [17才の恋話]

 もしも月極君が運動会とかに対して冷ややかで、一生懸命にがんばっている子たちのことを見下しちゃったりしていたとしたらさ。まわりの皆はそんな月極君に対して腹を立て、嫌っちゃっていたはずだと思う。でも月極君は決して、そうではなくて。「運動会でがんばることに何らかの意義があるように感じるのなら、そうすればいいんじゃないのかい。それを馬鹿にしたり、蔑んだりはしないよ。だけど自分は、こういうことに意義を感じられないからさ。だから自分は君たちと一緒に熱くはなれないけれど、勘弁してもらうぜ」って感じだったの。

 だから皆も、月極君に対して怒ったりはしてなくて。「あいつはああいう奴だから、好きにさせておこう」って思っていたみたい。高校生くらいになると皆たいてい「決して全員に同じ一つの考え方を押しつけたりせず、それぞれの考えや自由を尊重しよう」って雰囲気になるしね。

 それから月極君の場合、学校の勉強や試験に対しても同じような感じ。どうやら頭は、いいらしくてさ。時おり試験の範囲が自分の好きな内容だったりすると、すごく高い点をとったりするんだけどね。あるいは自由研究とかで気が向くと、とても熱心に取り組んだりもするし。
 でも「いい成績をとる」こと自体には、どうやら興味がないらしくって。決して点とり虫とかじゃなく、本当に自分がやりたい勉強だけしていたみたい。

 でもって点とり虫じゃないから、先生たちに対しても言いたいことを自由に言っていたっけ。内申書にどう書かれるかを気にして、先生たちの前でいい子ぶっちゃったりはしないで。その点は日向君とも、ちょっと似ていたと言えるんじゃないかな。

 ただし日向君の場合は学校の行事や勉強に対して、いつも一生懸命にがんばっていたわけでしょう。おまけに素直で無邪気な性格だったから、先生たちにも好かれていたんだけどさ。月極君の場合は大人っぽい雰囲気でたいていのことに冷めていたから、先生たちの受けはよくなかったの。可愛げのない奴だな、と思われちゃっていたのでしょうね。

 そういえば月極君って、部活動もしていなかったし。部活動で一生懸命にがんばっていると、その部の顧問の先生には目をかけてもらえることが多いんだけど。
 しかも月極君の場合、クラスの中での友だちづきあいに対しても「冷めている」って感じだったの。
 決して皆と仲が悪かったわけじゃなく、誰とでも普通におしゃべりしたりはしてたんだけどさ。でも特定の誰それと、べったり親しくするっていうことはなくて。決して何か友だちに頼りきったり依存しちゃったりすることはなく、互いに独立した「大人のつきあい方」をしていたって感じかな。
 いろいろな意味で本当に高校生ばなれした、大人っぽい男の子だったんだ。

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