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愛は地球を救わない.原15-3 [恋愛小話]

「ちょうどいい時刻だわ、もう時が迫ってきてしまったから。あの子たちのことを今すぐ、この部屋の外へと解き放ってやりましょう。新しい夜明けの訪れとともに、新たな時代の幕がひらくというわけね」
「いよいよ、その時がやってきたのか。かくして預言は成就され、世界が生まれかわるんだね。これまでの世界と人類とが滅んでしまい、かなんと私が創りだす新しい人類に満ちあふれた新たな世界へと」

「その新たな時代への幕は、先生の手で切って落とさなければならないわ。これは先生が望んで選びとった、そして先生が創りだす世界なんだから。さあ、その手で窓を押しひらくのよ。この窓を大きく開けはなち、あの子たちを部屋の中から外の世界へと送り出してやってちょうだい」

 かなんから言われるままに私は、目の前の窓を押しあけた。
 すでに気配を感じとり、いつでも飛びだせるように身構えていたのだろう。部屋の中に浮かんでいた何十本ものペニスたちが、先を争うようにして窓から外へ飛びたっていく。

 そいつらは全て、まさしく夜が明けようとしている東の空へと向かい進んでいった。かなんの子宮の中にいた時に浴びていた羊水が渇ききらぬまま、まだ濡れているペニスも多かったようだ。それらは地平線から顔を出しはじめた朝陽に照らされて、まぶしく光輝いている。奴らは全て、このバビロンの中心部を目指しているのだろうか。おそらくは新しい世界を創りだすための営みに、そこから取りかかろうというつもりなのに違いない。

「喜ばなければならないと頭の中ではわかっていても、ちょっぴり淋しい感じが避けられないものね。お腹をいためた子供たちが世の中へと巣立っていく時の、母親の気持ちというやつは」
「でもこれで、もはや後戻りはできないんだね。ようやく新たな時代が始まり、新しい世界が創りだされていくことになるんだね。かなんと私の愛が切り拓き、育んでいく新しい愛の世界が」

「そう。古く汚れたバビロンは滅びさり、ここが新しい約束の地に変わるのよ。現代のアダムとイヴが愛しあい、新しい人類を産みだしていくエデンの園にね。私たちは昔のアダムやイヴとは違い、決して楽園から追放されないように気をつけなくっちゃ」

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愛は地球を救わない.原15-2 [恋愛小話]

 いや、人類は決して滅びない。たとえ現実の人類は滅びようとも、この私にとって世界は決して滅びてしまったりなどしない。この私が新しい人類を産みだし、そして新しい世界を築きあげてみせるのだからだ。
 かなんと愛しあって子供を作り、その子孫を世界中へと満ちあふれさせることによって。

 かなんと私は、新たな世界のアダムとイヴになろう。かなんは新たな人類の母親に、そして私は父親になる。かなんと私の二人が新たな人類にとっての産みの親となり、新しい世界の創造主になるのだ。
 かなんに対する私の愛が全てを新しく創りだし、そして全てを統治する新たな世界の創造神に。

 かなんと私の手によって世界と人類は、その滅亡から救い出されるのだ。したがって私たち二人は新しい世界と人類にとっての救世主、すなわちイエス・キリストの役をも兼ねると言っていいのに違いない。
 その新しい世界と人類にとって私たちの言葉は神の言葉となり、私たちの行いは神の御業となるだろう。
 そして私たちの言葉とは、すなわち「愛」。私たちの行いは、すなわち愛の営みに他ならない。

 新しい世界は愛に満ちあふれ、そして愛が全てを統治する世の中となるべきなのだ。
 そこでは愛が世界を支え、地球と人類とを滅亡から救い出すべきなのだ。
 そんな世界を私たちは築きあげ、それによって地球と人類を滅亡から救い出すべきなのだ。
 神々しいまでに気高くも美しい、この愛という名のもとに。

 かなんに対する私の愛だけに、それをなしとげる力が備わっているのだ。かなんに対する私の愛だけが、それをなしとげうる力を備えもっているのだ。
 かなんの美しさに恋こがれ、それを守りぬくためになら自らの命をさえも投げだして顧みない私の愛だけが。

 かなんは窓際へと歩みより、そしてカーテンを開けはなった。それまで暗闇に閉ざされていた部屋の中へ、いきなり外界の光があふれこんでくる。まだ陽がのぼる前の曙光は、本来ならば穏やかな優しさを備えているはずのものなのだろう。しかし部屋の中の暗がりに慣れきってしまっていた目には、それが鋭いまでにまぶしく感じられてならない。窓際に立って外を眺めているかなんの姿は、さながら日蝕の太陽ででもあるかのように後光を放って見えるほどの神々しさだ。

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愛は地球を救わない.原15-1 [恋愛小話]

婚礼の日が来て花嫁は用意を整えた。
光輝く清らかな麻の衣を着せられた。
    黙示録第十九章

 いつの間にやら外の世界では、鳥たちが騒ぎはじめていた。
 この死にかかったような街の中でも、もちろん鳥たちは生きながらえている。
 現代のバビロンの空を飛ぶものは、なにもペニスだけに限られているわけではない。
 たとえ日頃は姿を気にとめる機会がなかったとしても、この街の中で鳥たちはひっそりと彼らの暮らしを営んでいるのだ。

 そしてもし仮に人類が全て死に絶えてしまった後でさえ、彼らは少しも変わることなくその営みを続けていくのかも知れないのだ。
 人類が死に絶えてしまったことなど少しも惜んだりせず、全く気にとめようともせずに。
 かつて地球の上に人類という種族が繁栄し我がもの顔でのさばっていたということなど、すっかり記憶の中から消し去ってしまったままで。

 そんな彼らの声にうながされるようにして私は、ふと窓の方へと目を向けた。
 カーテンの生地の向こうで窓が、ぼんやりとした淡い光を放ち浮きあがって見える。
 夜明けだ。
 ようやく世界に朝が訪れ、あたりの景色が白みはじめているのだ。
 新しい時代、そして新しい世界の幕開けを告げることになる新しい朝の訪れだ。

 それまでの世界をひっくり返してしまった大変な一夜は、ついにその幕をおろした。
 たった一晩のうちに一体、どれほど多くのことが起こってしまったというのだろう。
 どれほど多くのことが様がわりを果たし、新しく塗りかえられてしまったことか。

 もはや世界は、昨日と同じ世界ではない。そして私も、昨日と同じ私ではない。
 かなんもやはり、決して昨日と同じ彼女ではない。
 かなんも私も世界もが、一夜のうちに新しく生まれ変わってしまったのだ。
 それまでの汚れを知らずにいた姿から、人の我がままや醜さを知ってしまった大人へと。
 我がままや醜さを身にまといはしてしまったが、それと引きかえに本当の愛をも知った大人と。

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愛は地球を救わない.原14-6 [恋愛小話]

「いいの、先生は。世の中や他の人のことを一切、気にかけたり気に病んだりなんかしなくても。ここは先生が創りだした、先生のための世界なんだもの。他の人たちにはちゃんと、それぞれの人のための世界が別に用意されているのよ。大切なのはそれぞれの人が、それぞれ自分のための世界を正しく築きあげることなの。言いかえるなら全ての人が愛によって、それぞれの世界を創りだしていくことなんだわ。それこそがおよそ全ての人類にとって、この世に生まれ生ているということの意味に他ならないんだから。それによって全ての人は幸せになることができるんだし、すなわち人類も救われるっていうわけね」

「それはいったい、どういうことだい。他の人たちにはちゃんと、それぞれのための世界が別に用意されているというのは」

「これらは全て、しょせん夢物語に過ぎないの。先生の激しい願望が創りだした、おとぎ話のようなものでしかないのよ。そして他の人にとっては、また別の夢物語が用意されているんだわ。そちらでも決して地球が滅んでしまったりなんかせず、その人が新しい世界を築きあげるという物語がね。そういう物語を産みだすことができるというのが、その人にとっての幸せだと言ってもいいんじゃないかしら。そんな物語を考えだすだけの想像力というか、創造力を持てない人も世間には大勢いるということを考えるなら」

「それじゃあこれは、やはり単なる夢か幻に過ぎなかったのか。かなんは、そう言うんだね。今、私の目の前に広がっているこの世界は単なる幻なんだって」

「そう決めつけたものでもないわよ。夢と現実のどちらがいったい本当なのか、人間には見きわめる手だてがないんだもの。先生が夜に夢を見ているんだと思いこんでいても、実は逆なのかも知れないわけでしょう。その夢こそが現実で、昼間の生活だと思っていたもの方が実は夢かも知れないっていうふうに」

「それって何だか、荘子に出てくる胡蝶の夢みたいな話じゃないか。確かに人間には、判断することができないとされているんだったっけ。自分の目に映っている世界の姿が本当に正しいのか、それとも目の狂いか何かで間違った姿を見ているのかということをね。普通の人にとっての赤や緑が、色盲の人には他の色に見えたりするというのと同じようにさ。自分の目に映っている世界の姿が他人の目に映っているそれと同じかどうか、確かめるための手だてはないからな。僕たちにとっては赤く見えるはずの色のことを、色盲の人は生まれてからずっと緑だと思いこんでいるかも知れないわけで」

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