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猟犬ジョーに宿はない.11 [皆の恋話]

「もしかして貴方、操をたてているとでもいうの? その、貴方が捜しているという女の人に」
「そんなことはないさ。ただこれ以上、君を巻きこみたくはないだけだよ。よそ者の俺に優しい口をきいてくれる、この町ではえがたい友だちの君をね。どうやら俺は、すでにこの町の荒くれどもから目をつけられているみたいだからな。あまり長いこと俺と一緒にいたりしようものなら、いづれは君にまでとばっちりがかかっちまわないとも限らないだろう」

「でもそれは貴方が、自らすすんで引きおこしたことじゃない。今夜はもう、いいんじゃないの。このうえ何も、わざわざもめごとの中へ飛びこんでいくような真似をしなくても。私のところへ泊まっていけば、少なくとも明日の朝まではかくまってあげられるわ。どうしても貴方がもめごとを起こしたいんだとしても、一晩ゆっくり休んでからにした方がいいんじゃないかしら」

その申し出に感謝しながらも俺は、気のない素振りで女に答える。
「本当に優しいんだな、君は。それに言うことが、いかにも女の子らしいじゃないか。そりゃあ俺だって、ちったあ君の言うとおりにできたらなと思わないわけでもないんだぜ。しかし、決してそうは問屋がおろさないんだ。俺は少しも時間を無駄にしてなんか、いられないんだから。それにもともと、もめごとは俺の商売なもんでね。今さら、おちおち休んでいようだなんて気になれるもんじゃないよ」

「そんなことを言ったって、どうするつもりだっていうのよ。寝るところもないっていうのに。まさかこのまま一晩中、物騒なまねを続けるつもりじゃないんでしょう」
顔にうかんだ微笑みをこらえきれずに、俺は思わず笑いだしてしまった。
「その、まさかだよ。さっき俺が殴り倒した男の仲間たちが今頃、俺のことを捜しまわって大騒ぎしているはずだからな。ちょっくら行って御挨拶をしてこなければ、礼儀を欠くっていうものだろうさ」

「自信過剰よ、貴方は。やくざ者たちの間へ、それもたったひとりで飛びこんでおきながら無事でいられるなどと思っているだなんて。だけど私がいくら止めても、どうせ貴方は行ってしまうのでしょうね。いいわ、行ってらっしゃい。そしてどれほど自分が身のほど知らずだったのか、思い知らされてくればいいんだわ。そうしたら私は、思いっきり貴方のことを笑ってあげるから。もっともそれだって貴方が、生きて再び私の元へ姿を現すことができたならの話でしかないわけだけど」

「大丈夫だよ。女を捜しだすことができる時まで、俺は決してくたばっちまうわけにはいかないんだから」
そんな俺の科白を聞いた女は、一瞬どこか哀しげな顔つきを見せる。しかしすぐにそんな表情を自ら振り払い、心を決めたかのように言葉を続けた。

「今は貴方のその自信過剰に、賭けてみるしかないんでしょうね。もはや私としては、ひたすら頼みにするばかりだわ。あのいやらしい男を一度しか殴らずに倒しちゃったっていう、およそ人間ばなれした貴方の力と度胸とを」
「だから、それは大丈夫だって。銃で撃たれた時は死ぬんだっていう覚悟ならあるけれど、まだ撃たれるつもりはないからな」

「貴方って、本当に怖いもの知らずなのね。それじゃあ、おやすみなさい。また陽の光のもとで貴方と会えることを願っているわ」
そう言って女は俺の方を振りかえり振りかえりしながらも、門のなかへと消えていく。
「俺もさ。じゃあ、おやすみ」
俺はおやすみのグッド・ナイトが、グッドバイに聞こえないように気をつけた。俺のような商売の者にとって長いお別れは、もうたくさんだ。

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