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高校での人気者の一例.3 [17才の恋話]

 でもあれは、高校の二年生だった年の初夏。そんな私の月極君に対する見方を、すっかり塗りかえちゃうようなことがあったんだ。

 私たちがかよっていた高校のすぐそばに、道路に面してびっしりと有刺鉄線がはりめぐらされている場所があってさ。私が学校から自分の家へ帰ろうとして、その有刺鉄線の前の通りを歩いていた時のことなんだけど。なんと有刺鉄線のすぐ脇で、自分の腕に一羽のカラスを抱えた月極君がいたのよ。

 だもんで私は、驚いちゃって。「どうしたの、月極君。そんな、カラスなんて抱えちゃって」と彼に訊いたの。
 そしたら彼は「このカラスが今、ここのところの有刺鉄線に翼がからまっちゃってたからさ。かわいそうに思って、外してやっていたんだよ」と言いながら、何やら自分の片方の手でカラスの翼を押さえてさ。「よっしゃ、これで終わりだ。どうにか、やっと外れたぞ。翼が何か所か有刺鉄線に引っかかっちゃってたから、けっこう大変だったけど」って答えてくれたの。

 でもカラスって近くで見ると、かなり大きいのよね。しかも太くて、いかにも硬そうなくちばしを持っているし。だから私は不安になって「だけどカラスなんて、大丈夫? その大きなくちばしで突つかれたりしたら、痛いんじゃない?」って訊いたんだ。
 そしたら月極君は「心配ないよ、カラスは頭がいいからね。自分が助けてもらっているんだってことは、わかっているはずだもの。なのに自分のことを助けてくれた人を突ついたりなんか、するはずはないさ」って教えてくれて。

 そして月極君は「ほおら、飛んでけ。もう決して、有刺鉄線に止まろうとなんかするんじゃないぞ」と言いながら、そのカラスを空へと放り投げるようにしたの。
 するとカラスは、翼を広げて飛び上がってさ。カア、カアって鳴きながら私たちの頭の上で何回か、輪を描くように飛んだんだ。そしてそれから空へ高く上がって、どこかへ飛んでいっちゃったんだけどね。

「あいつ今、鳴きながら俺たちの頭の上を回るように飛んだだろう。あれはたぶん、助けてもらったお礼を言ったつもりなんだと思うよ」
 月極君ったら、そんなふうに言って目を細めちゃって。カラスが高く飛んでいく姿を、いかにもいとおしげに見つめていたっけ。

 でもってカラスの姿が見えなくなってから「カラスは頭がいいから、好きなんだ。さっきみたいに『ああ今、こいつとの間で気持ちが通じあえたな』って思える時もあったりするし」だなんて言ったりもしていたし。
 よりにもよって「カラスが好きだ」っていうあたりが、いかにも変わり者の月極君らしいって感じでしょう。犬や猫とか、あるいは雀だとかの小鳥でもなくてさ。
 でも確かに考えてみれば月極君とカラスって、なんだかちょっと似たもの同士って言えそうだものね。どちらもあまり誰かに頼ったりせずに、自分の力だけで生きていこうとしている感じで。

 だけど飛んでいくカラスのことを、いかにもいとおしそうに見つめていた月極君の横顔を見てさ。私はちょっと、彼に対する認識を改めさせられちゃったわけよ。「ああ、月極君って実は有刺鉄線に引っかかったカラスのことを助けてあげるような優しい気持ちのある男の子だったんだ」って思って。
 でもって、そんな月極君の優しさの部分に気持ちがひかれちゃったみたいで。その日からというもの、なんだか月極君のことが気になるようになっちゃったんだ。

 それまでは月極君のことを「斜に構えているのが不良っぽくて、感じが悪いな」だとか思っちゃっていたわけでしょう。でも、それが今では「ともすれば世の中が押し付けてこようとする型にはまらず、自分の素直な気持ちのまま自由に生きていこうとしているわけね。犬や猫だとか小鳥じゃなく、カラスが好きだっていうのと同じで」っていうふうに思えてきちゃって。そういう月極君の自由な生き方が、むしろ魅力的なものに感じられちゃってきたの。本当に「ものは考えよう」って言うのか、「あばたも笑窪」とも言えそうだけど。

 でもって、正直に話しちゃうわけだけど。私は月極君のことが、すっかり好きになっちゃったわけ。
(「至福の恋人を探して」より)

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至福の恋人を探して  卑猥でない性愛物語

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