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愛は地球を救わない.原14-5 [恋愛小話]

「与えられるものではなくて自分のこの手で掴みとる幸せでなければ、私には決して意味があると思えないからな。もしかすると私は一日に一度しか、かなんを抱いてあげることができないかも知れない。そしてかなんは、それだけでは満ち足りないと感じずにいられないのかも知れない。でも、だからといって不自然な無理や無茶はしたくないんだ。たとえば何か麻薬の類を用いれば、性的な快感を高めることはできるのかも知れないよ。あるいは男の側の体を無理にふるいたたせて、一日に何度も性交や射精ができるようにしむけることもね。だけどそういうことをして、それが本当に幸せだろうか。全ての制約や束縛を不自然にとっぱらってしまった幸せを、僕たちは本当に幸せとして感じることができるのだろうか」

「制約や束縛を不自然な手だてで除いてしまっても、それによって本当の幸せを得ることはできないというわけね」

「およそ人間は誰しも多くの制約や束縛の中で、それを何とかしようと必死にもがきながら生きているんだ。それらの制約や束縛の中で、それでも自分たちにとって最大の幸せを得ようと努めてね。自分たちが持っている限られた力を、何とかして最大限に活かしてやろうと努力することによってだな。そして実のところ僕たちにとっては、そういう営みを続けていく道のりこそが幸せなんじゃないかと思えるんだよ。そういう制約や束縛に真正面から立ち向かい、自分たちの力で何とか乗りこえようと努める試みそのものがさ。誰か他人に操られ幸せを与えられたとしても、そんなのは決して嬉しくなんかありゃしない。自分で自分の人生に責任を持って生きていけばこそ僕たちは、本当の幸せを得ることができるんだ」

「与えられた快感の中に幸せはない、それは自分で掴みとっていくべきものだということなのかしら」

「たとえば性交のことだって、そうじゃないのかい。かなんを一日に何度も抱いて快感を与えてあげられるよう、私が自分の体を鍛えることはできるだろう。そんな努力をすることで私は自分の能力を、より大きなものへと高めていきたい。そしてかなんとの性交を、より気持ちのいいものに育んでいきたい。かなんと私との交わりを、より深められるように努めたい。そんな営みを通してこそ僕たちは、この手に本当の幸せを掴みとることができるんじゃないのかな」

「だから先生は、それを望んでくれたのね。私と二人で愛しあい、お互いの快感を高めるために努力しつづけていくことを」

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愛は地球を救わない.原14-4 [恋愛小話]

「本当に先生、かまわないんですか。そんな取りかえしのつけようがないことを、ここで言いきってしまったりなんかして。だって先生には、もっと別の道を選ぶことだってできたはずだっていうのに。たとえば新しく生まれてきたあの子たちが皆、やはり先生の感覚というか神経につながっていたと考えてみて下さいな。そしてあの子たちが女の人を襲って産ませた子供も皆、やはり先生の神経につながっていたとして御覧なさい。その場合はいくら先生だって、とても私のことを考えている暇なんかありませんよ。あの子たちのうちの誰かが女の人を襲うたび、先生も性的な快感を覚えることになるわけだもの。そうなってしまっていたら先生は休みなく、のべつまくなし快感に浸っていることができたはずなんじゃないかしら。あの子たちはすぐに数が増えるだろうし、いつでもあの子たちのうちの誰かが女の人を襲っているはずでしょうから」

「なるほどね、そいつは考えてもみなかったな。もしかすると確かに、それは男にとって究極の夢というか願望なのかも知れないぜ。女の人と違って男は普通、性的な快感を連続して味わいつづけることができないからな」
「えっ、何ですって。それは一体、どういうことかしら」

「女の人は誰かに続けて抱かれれば、くりかえし快感を得ることができるんじゃないのかい。でも男の側は体のしくみ上、それが不可能なんだ。男が性的な絶頂感を味わえるのは、精液が尿道を通って外へ飛びだす時だけだからね。そりゃあ体力の消耗を考えに入れなければ、くりかえし一日に何度も女の人を抱くことはできるだろう。だけど何度も続けていると、やがて精液を作るのが追いつかなくなってしまう。そうなるとたとえ女の人を抱いて射精をしても、決して最初のような快感は得ることができなくなってしまうのさ。だから男は普通、決して一日に何度も性的な絶頂感を味わうことができないんだよ。それ以前の問題として、もちろん一日に何度も女の人を抱くだけの体力が続かないということもあるわけだしな。性交というのは男にとって、かなり体力を費やしてしまう営みなんだから」

「はあ。そうやって言われてみると、男の人も大変なのね。こと性に関しては女が受け身だといわれ、その大変さだけが声高に唱えられているようだけど。男の人には生理がないし、妊娠や出産の辛さからも免れているしって」

「その分だけ性的な快感という意味では、男の方が分け前を減らされてしまっているのかも知れないね。だけどさっきの話が現実に可能なら、それこそ男にとっては究極の至福なのかも知れないぞ。自分で性交や射精をしなくても、あのペニスたちが女の人を襲うたびに快感を得ることができるっていうんだったらさ。その場合は精液を作るのが間に合わないなんていう心配をする必要もなく、それこそ一日中だって快感を味わいつづけることができるのだろうからな。それに体力だって、消耗せずに済むのだろうし」

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愛は地球を救わない.原14-3 [恋愛小話]

「さっき私は自分のことを、マリア様になぞらえてみたわよね。あの子たちが人口の増加を抑制して人類を滅亡から救ってみせたなら、あの子たちを産んだ私はマリア様みたいなものだと言って。でも私は、決してマリア様なんかじゃない。この世の中や人々を救うために現われるという、救世主の産みの親なんかじゃないんだわ。私は、かなんなの。選びぬかれた人にだけ、たどり着くことを約束された希望の大地。決して絶えることなく乳と蜜が流れる、この地上の楽園。それこそが私に他ならないのよ」

「旧約聖書に書かれたユダヤの伝説に出てくる、カナンの地だね。長く苦しい旅路の果てに彼らが、ようやく築きあげたという自分たちの国だ。すなわち私にとっては、かなんこそが最後にたどり着くべき相手だったというわけなんだな」

「そして同時に私と先生は、この世界におけるアダムとイヴになるんだわ。他の人間が一人もいないエデンの園で、汚れを知らずに暮らしていたというアダムとイヴの二人にね。この部屋が私と先生の二人にとって新しいカナンの地、そして同時に新しいエデンの園になるのよ。あの子たちを外へ解き放ったら確かに、この世界では人類が滅亡してしまうかもしれない。だけど、それでも構わないの。ここで先生と私の二人が生き残り、そして愛しあっていさえしたならば。私たちが愛しあって子供を産めば、人類は決して滅んでしまわずに済むんですもの。この地球いっぱいに私たちの子供が増えて満ちあふれ、新たな世界を創りだしていくことでしょうから。産めよ増やせよ地に満ちよって、聖書にも書かれているんだし」

「かなんと二人で、ともに手を取りあって生きていきたい。かなんさえ私と一緒にいてくれるなら、他の人間なんか一人もいなくて構わない。いや、かなんと二人きりになるためには、むしろ他の人間なんか一人もいなくなってしまってくれればいい。この私の心のどこか片隅に、そんな気持ちが隠されていたことは確かだな。そんな私の身勝手な我がままこそが、こんな事態を巻き起こしてしまったのかも知れないね。かなんと私の二人だけを残して、他の人類が全て滅んでしまうかも知れないだなんていうような事態を」

「それは別に、なにも先生だけに限った話ではないんじゃないかしら。愛する人と自分の二人きりだけで、この地球の上に残されたいと願うのは。そういう気持ちって、おそらく大勢の人たちが分けもっているはずのものだと思うわよ。そんなことを口に出して言ってみせる人は少ないせいで、それと誰もが気づかずにいるみたいだけれど」

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愛は地球を救わない.原14-2 [恋愛小話]

「わからないなあ、どうしてそうなるんだ。だって奴らには、自分の祖母や曾祖母を見分けることができないんだろ。かなんが今さっき自分で、そう言っていたばかりじゃないか」

「だから言ってるじゃない、あの子たちにとって私だけは特別な存在なの。あの子たちにとって言ってみれば私は、あの子たちの全てが生まれてくるきっかけを与えた大もとの祖先にあたるわけでしょう。だから私についての記憶だけは、あの子たちの遺伝子に埋めこまれているのでしょうね。この先あの子たちが代を重ねても、ずっと受けつがれていくことになるみたいだわ。そして私のことを自分たちの祖先として崇め、大切にしてくれるのよ。私を襲うことが許されていたのは、そのタッパーウェアの中にいる最初のやつだけだったっていうわけ」

「なるほど、そうなのか。すなわち他の女の人は奴らに襲われつづけても、かなんだけはそれを免れられるっていうんだね。だけどまだ一つ、どうもよくわからないぞ。どうして奴らにとって、かなんだけが特別なんだ。かなんが最初に襲われて子供を産んだから、それで奴らにとって特別な存在になったっていうのはわかるんだけどさ。じゃあ最初の奴は一体どうして、かなんを襲って子供を産ませたんだろう。決して他の女の人を襲わず、よりにもよってかなんのことを」

「何を今さら先生は、しょうもないことを言っているのよ。そんなのは言われるまでもなく、わかりきっていなければいけないはずのことじゃない。だって最初のあれっていうのは、先生の何だったんでしょう。この部屋へ来てもらった時に先生が、そう自分の口から言っていたんじゃないですか」

 かなんの言葉は私の意識の盲点を、少しの狂いも見せずに鋭く貫きとおしてみせる。
 そうだ、確かにかなんの言う通り。あまりにも色々なことが目まぐるしく起こりつづけていたせいで、すっかり見失いかけてしまっていた。でも全てのことの起こりは、この私に他ならなかったのだ。かなんに対する私の激しい愛こそが、これら全てを引き起こした大もとであり引き金でもあったのだ。ことの移りゆきに私までもが翻弄されて、うっかり自分が全ての事態の張本人だということを忘れてしまっていたのだが。

「そうか、ようやくわかったよ。それで奴らの全てにとっても、かなんは特別な存在なんだな。この私自身にとって、かなんが特別な存在に他ならないがために」
「やっと気づいてくれたのかしら、これらの全てを引きおこしたのは先生だっていうことに。これらの全ては先生が原因で、この世界に創りだされたものに他ならないのよ。この部屋の中に浮かんでいる子供たちも、それから最初に私を襲ってきたやつもね」

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