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愛は地球を救わない.原14-1 [恋愛小話]

愛がなければ私はただ単にうるさいだけの鐘、
やかましい音を立てては騒ぎつづける打楽器。
信じることと希望と愛の三つは、いつまでも
存在し続ける。その中で最も偉大なのは愛だ。
愛を追い求めよ。
    コリント第一書簡第十三章

「大丈夫よ、心配しないでも。人類は決して、滅んでしまったりなんかしないから」
 かなんは自信に満ちあふれた口ぶりで、そう私に対し断言してみせた。
「こいつはまたやけに、まるで当たり前のことででもあるかのような言い方をしてくれるじゃないか。いったいどうして、そんなことが言いきれるんだい」
「だってあの子たちは決して、この私のことを襲ったりなんかしないもの。だから他の女の人は駄目でも、この私だけは子供を産むことができるはずだわ」

「ちょっと待てよ。そういえばさっき確かに、かなんは言っていたっけ。かなんは奴らにとって産みの親にあたるわけだから、決して奴らに襲われることはないだろうって。かなんが奴らに襲われたんじゃ、そいつは近親相姦になってしまうものな」
「でしょう、だから私は大丈夫なのよ。他の女の人は子供を産めなくなっても、この私に限っては例外なの」

「でもそれは必ずしも、かなんだけに限った話ではないんじゃないのかい。だって、考えてみてくれよ。たとえば奴らが誰か、かなんでない女の人のことを襲って身ごもらせてしまったとするぜ。その結果として新しく生まれてきた奴らは、その女の人のことを襲わなくなるんじゃないか。もしも襲ってしまったら、やはり近親相姦になってしまうわけだからさ」
「それは確かに、そうでしょうね」

「でもって新しく生まれてきた奴らが別の女の人を襲い、子供を産ませたとするぜ。そうやって生まれてきた奴らだって同じように、はじめの女の人のことを襲わないんじゃないのかい。そいつらにとってその女の人は母親でこそないものの、言ってみれば祖母に相当するわけだもの。産みの親を襲うのが近親相姦だって言うのなら、祖母を襲うことだって同じはずだろう。だとしたら一度でも奴らの子供を産んだ女の人は、その後もはや二度と襲われずに済むということになるんじゃないか。だったら確かに、人類が滅んでしまうことは避けられるわけだ。それに奴らは遠からず、それ以上に数が増えなくなってしまうだろうな。あの勢いで増えつづけたら、すぐに襲う女の人がいなくなってしまうはずだから」

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愛は地球を救わない.原13-3 [恋愛小話]

「だけど先生、ちょっと待ってよ。何だか話が少し、ずれてしまったみたいだわ。今は何も先生と私が一緒に暮らすかどうかということについて、話していたわけではないでしょう。あの子たちのことをどうするのかっていう話を、先に相談して決めないと」
「だから私は、さっきから言っているんじゃないか。あいつらのことは、この部屋の中へ閉じこめてしまおうって。そして僕らは、どこか別の部屋で暮らせばいいはずだってね」

「それは駄目だわ、残念だけど。だって私は、この部屋から出て行くつもりなんてないんですもの。一緒に暮らさないかと言ってくれた先生の気持ちは、ありがたく聞かせてもらいましたけどね。でも私と一緒に暮すんだったら、ここへ先生が引越してくればいいじゃない。ここの方が先生の住んでいる部屋より広って、さっき先生も言っていたんだし」

「おいおい、それはないだろう。それじゃあ何かい、かなんは気にならないって言うのか。ここで奴らと一緒に、同じ部屋の中で暮らしていくだなんていうことになってもさ。悪いけど私は、とうてい我慢できそうにないな。かなんが誘ってくれたのは、とっても嬉しいんだけどね。だけど私は駄目だ、およそ一日たりとも耐えられそうにないよ。いつでも奴らに見張られていながら、そんな中で生活していくだなんていうことには」

「大丈夫、そんなことを先生に無理強いするつもりはないわ。私だって先生と二人きりの生活を、あの子たちに邪魔されたくはないもの。そんなのは思い浮かべてみただけでも、ぞっとしないというものじゃない。先生と私が一緒のところを、あの子たちに上から見つめられているだなんていうのは。誰かに見られるのを喜ぶ人も世の中はいるんだっていう話なら、私も知らないわけではないけどね。でも私には幸か不幸か、そういう趣味がそなわっていないみたいよ」

「だけどそれじゃあ一体、どうするつもりだって言うんだい。やはりどうにかして何か、うまい手だてを考えださなければならないのかな。奴らのことを捕まえて、どこかに閉じこめてしまうための手だてを」
「そんなこと、必要ないわよ。あの子たちを捕まえてしまったり、どこかへ閉じこめてしまったりするだなんていうのは」
「だって奴らを放ったらかしにしておきながら、その同じ部屋の中で暮らしていく気にはなれないぜ。かなんも今、そのことは認めたはずなんじゃないのか」

「そう言うのなら逆の発想を、してみればいいんじゃないかしら。あの子たちを部屋の中へ閉じこめるんじゃなく、逆に締めだしてやればいいって。簡単なことだわ。あの子たちを外へ追い出して、私たちが部屋の中で暮らせばいいのよ。悪さをした子供が母親の手で家から締めだされるなんて、どこにでもよくある話じゃないの。あの子たちは外で悪さをしたくてたまらないんでしょうから、窓を開けてやりさえすれば喜んで外へ飛びだしていくことでしょうし」

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愛は地球を救わない.原13-2 [恋愛小話]

「困ったなあ。それじゃあいったい、どうすればいいと言うんだい。もはやこうなってしまったら、しかたない。こいつらは皆、ここへ閉じこめておくことにしようか。この部屋の外へ出しさえしなければ、誰のことをも襲ったりなんかできないはずなんだから」

「それで私は、どうするの。まさか永久に、この部屋へ閉じこもっていろと言うんじゃないでしょう。そんなのは、お断りさせてもらうわよ。この子たちが決して逃げだしたりしないよう、ずっと一緒にいて見張りつづけるだなんていうのは」
「もちろん決して、そんなことを頼んだりするつもりはないさ。かなんを後に残していって、もしも何か起こったら大変だものな。万が一かなんの身に何かあったりしたら、悔やんでも悔やみきれないだろうし」

「それじゃあ私は、どうすればいいというのかしら。この部屋を自分では使わず、この子たちに明け渡さなければならないのだとすると」
 少し言葉をふるわせながら私は、かなんの問いかけに対する返事を喉から外へ押しだそうと試みた。ともすれば心がはやりがちになるのを、かろうじて必死の思いで押さえつけようと努めながらだ。

「かなんさあ、ひとつ提案があるんだけど。この際だ、いっそ私の部屋へ来ないかい。この部屋よりは狭くて見た目も汚いけれど、かなんと私が二人で暮らしていくことくらいはできるだろう。そのうちに広い部屋を見つけて、そちらへ二人で引越してもいいんだし」

「すなわち先生と一緒に暮さないかって、この私に言ってくれているわけね。でも先生、そんなことを気軽に言ってしまって構わないのかしら。ちゃんと後先を考えて行動しないと、大変なことになってしまわないとも限らないわよ。だって私は、あくまでも先生の教え子なんですもの。そんな私と一緒に暮らしているだなんていうことが、もしも皆に知られてしまったらどうするの。そうなったら先生は、もはや講師の職を失ってしまいかねないわ」

「いや、それは心配しなくていいだろう。かなんが高校生や中学生だっていうのなら、確かに少し問題かも知れないけどね。けれども僕らは、大学の講師と学生という間柄なんだ。そんな僕らが一緒に暮しても、とやかく言われなければならない筋合いはないだろうさ。かなんと私は、お互いにもう大人同士なんだから」
「本当にそうだと、いいんですけど。だけど万が一、もしも仮によ。そのことを咎めだてされて先生が、講師の職を解かれちゃったらどうするの。お金を稼げるあてがなかったら先生だって、暮らしていくのに困るでしょうに」

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愛は地球を救わない.原13-1 [恋愛小話]

(「愛は地球を救わない.原12-4」からの続き)

もしも恋人に対して正しい態度を取っていないと
感じ、つのる思いが激しくて抑えきれないのなら、
結婚することによって思いをとげなさい。
    コリント第一書簡第七章

「だけどそれって、あまりにも情けなく感じられることも確かだよなあ。人類が決して滅びることなく生きのびるために、そうやって他の何かの力を借りなければならないだなんていうのはさ。あくまでも自分たちの手で人口が増えすぎるのを防いでみせる、というわけではなしにね。これは人類にとって他ならない自分たちの存亡にかかわる問題なんだから、本当ならば自分たちの手でこそ乗りこえていかなければならないはずなんだが」

「やっぱり私たち人間が、自分のことしか考えていないからいけないんでしょうね。たとえ人類が滅んでしまう羽目になるのだとしても、だからといって目の前の楽な暮らしを手放したくはないというように」

「うん、やはり駄目だよ。いくら人間が誰しも身勝手だからって、せめて自分たちのことは自分たちだけで何とかしないと。決して奴らに頼って、自然に人口が減るのを期待したりなんかしないでね。それがうまく行かずにもしも人類が滅んでしまったとしても、それはもはや自業自得だと言わざるをえないのだろう。それに奴らに頼ってしまったりなんかしたのでは、それこそ逆に人類の滅亡が早められてしまわないとも限らないんだし」

「何とかするって、いったい何をしようというの。人口を抑えて人類と地球の滅亡を防ぐための手だてだなんて、そうたやすく見つけられるわけではないでしょう」

「そいつは私にも、わからない。でも奴らに頼ってしまうのだけは、きっぱりとやめてしまわうべきなのだろうな。とにかく今はまず奴らのことを、どうにかする手だてを考えよう。このまま奴らを野放しにして、手あたりかまわず女の人に襲いかからせてしまうというわけにはいかないからね。我々人類の問題は、やはり我々が自分たちの手で解決しなければ。たとえその試みが失敗に終わっても、それはやむを得ないと言わざるをえないと思うよ。少なくとも奴らの力を頼って、かえって逆に滅亡を早めてしまうよりはましなはずだ。もしもそんな羽目に陥ってしまったら、悔やんでも悔やみきれそうにないものさ。自分たちの手で解決を試みたけれど失敗してしまったというのなら、まだしも諦めがつくというものだろうけど」

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