愛は地球を救わない.原15-1 [恋愛小話]
婚礼の日が来て花嫁は用意を整えた。
光輝く清らかな麻の衣を着せられた。
黙示録第十九章
いつの間にやら外の世界では、鳥たちが騒ぎはじめていた。
この死にかかったような街の中でも、もちろん鳥たちは生きながらえている。
現代のバビロンの空を飛ぶものは、なにもペニスだけに限られているわけではない。
たとえ日頃は姿を気にとめる機会がなかったとしても、この街の中で鳥たちはひっそりと彼らの暮らしを営んでいるのだ。
そしてもし仮に人類が全て死に絶えてしまった後でさえ、彼らは少しも変わることなくその営みを続けていくのかも知れないのだ。
人類が死に絶えてしまったことなど少しも惜んだりせず、全く気にとめようともせずに。
かつて地球の上に人類という種族が繁栄し我がもの顔でのさばっていたということなど、すっかり記憶の中から消し去ってしまったままで。
そんな彼らの声にうながされるようにして私は、ふと窓の方へと目を向けた。
カーテンの生地の向こうで窓が、ぼんやりとした淡い光を放ち浮きあがって見える。
夜明けだ。
ようやく世界に朝が訪れ、あたりの景色が白みはじめているのだ。
新しい時代、そして新しい世界の幕開けを告げることになる新しい朝の訪れだ。
それまでの世界をひっくり返してしまった大変な一夜は、ついにその幕をおろした。
たった一晩のうちに一体、どれほど多くのことが起こってしまったというのだろう。
どれほど多くのことが様がわりを果たし、新しく塗りかえられてしまったことか。
もはや世界は、昨日と同じ世界ではない。そして私も、昨日と同じ私ではない。
かなんもやはり、決して昨日と同じ彼女ではない。
かなんも私も世界もが、一夜のうちに新しく生まれ変わってしまったのだ。
それまでの汚れを知らずにいた姿から、人の我がままや醜さを知ってしまった大人へと。
我がままや醜さを身にまといはしてしまったが、それと引きかえに本当の愛をも知った大人と。
おそらく愛というやつは、子供の頃の夢を見失ってしまった大人にとって唯一つだけ残された最後の大きな夢物語なのに違いない。
子供は誰しも大きくなっていくにつれ、その汚れなき夢の数々を一つずつ手放してしまう。
そのあげく最後に一つだけ手の中へ残しておこうと試みるのが、愛のある暮らしという夢物語なのだ。
たとえそれが実現は難しい、単なる夢物語に過ぎないと頭ではわかっているのだとしても。
愛は滅びゆく人類に残された、最高にして最後の壮大な夢物語なのに違いない。
そして私は、それを手に入れた。他ならない私の想像力や創造力だと、かなんが呼んだ力によって。それができた私は選ばれた幸せ者だと、自分で自分を認めていいのだろう。これまで自分で自分の想像力を育んできたことによる賜物だと、胸をはってみせてもいいのだろう。
私の人生は無駄でなかったと、そう認めてもいいのだろう。この世へ私が生まれてきたことには意味があったと、そう見なしてもいいのだろう。たとえ遠からず人類は滅びさり、この私が生きていたという記録や記憶さえ地球の上から姿も形も残さず消え去ってしまうのだとしても。
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黙示録第十九章
いつの間にやら外の世界では、鳥たちが騒ぎはじめていた。
この死にかかったような街の中でも、もちろん鳥たちは生きながらえている。
現代のバビロンの空を飛ぶものは、なにもペニスだけに限られているわけではない。
たとえ日頃は姿を気にとめる機会がなかったとしても、この街の中で鳥たちはひっそりと彼らの暮らしを営んでいるのだ。
そしてもし仮に人類が全て死に絶えてしまった後でさえ、彼らは少しも変わることなくその営みを続けていくのかも知れないのだ。
人類が死に絶えてしまったことなど少しも惜んだりせず、全く気にとめようともせずに。
かつて地球の上に人類という種族が繁栄し我がもの顔でのさばっていたということなど、すっかり記憶の中から消し去ってしまったままで。
そんな彼らの声にうながされるようにして私は、ふと窓の方へと目を向けた。
カーテンの生地の向こうで窓が、ぼんやりとした淡い光を放ち浮きあがって見える。
夜明けだ。
ようやく世界に朝が訪れ、あたりの景色が白みはじめているのだ。
新しい時代、そして新しい世界の幕開けを告げることになる新しい朝の訪れだ。
それまでの世界をひっくり返してしまった大変な一夜は、ついにその幕をおろした。
たった一晩のうちに一体、どれほど多くのことが起こってしまったというのだろう。
どれほど多くのことが様がわりを果たし、新しく塗りかえられてしまったことか。
もはや世界は、昨日と同じ世界ではない。そして私も、昨日と同じ私ではない。
かなんもやはり、決して昨日と同じ彼女ではない。
かなんも私も世界もが、一夜のうちに新しく生まれ変わってしまったのだ。
それまでの汚れを知らずにいた姿から、人の我がままや醜さを知ってしまった大人へと。
我がままや醜さを身にまといはしてしまったが、それと引きかえに本当の愛をも知った大人と。
おそらく愛というやつは、子供の頃の夢を見失ってしまった大人にとって唯一つだけ残された最後の大きな夢物語なのに違いない。
子供は誰しも大きくなっていくにつれ、その汚れなき夢の数々を一つずつ手放してしまう。
そのあげく最後に一つだけ手の中へ残しておこうと試みるのが、愛のある暮らしという夢物語なのだ。
たとえそれが実現は難しい、単なる夢物語に過ぎないと頭ではわかっているのだとしても。
愛は滅びゆく人類に残された、最高にして最後の壮大な夢物語なのに違いない。
そして私は、それを手に入れた。他ならない私の想像力や創造力だと、かなんが呼んだ力によって。それができた私は選ばれた幸せ者だと、自分で自分を認めていいのだろう。これまで自分で自分の想像力を育んできたことによる賜物だと、胸をはってみせてもいいのだろう。
私の人生は無駄でなかったと、そう認めてもいいのだろう。この世へ私が生まれてきたことには意味があったと、そう見なしてもいいのだろう。たとえ遠からず人類は滅びさり、この私が生きていたという記録や記憶さえ地球の上から姿も形も残さず消え去ってしまうのだとしても。
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