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猟犬ジョーに宿はない.6 [皆の恋話]

そう言いながら、俺は頭のなかで考えた。もしも彼らが強かったなら、あるいは彼らのうちの誰か一人でも飛び道具を持っていたならば。とてもじゃないが、三対一ではまともに勝ち目がないだろう。しかし彼らが飛び道具を持っているとは思えない。これだけ小さな町で、目立った抗争があるわけでもなさそうなのに飛び道具を持ち歩かなければならないわけはないのだ。そして飛び道具さえなければ彼らなど、たとえ三人束になったところで何ら怖れるには足りるまい。よく吠える犬に強い犬がいたためしはないのだから。

「おい、貴様。それはいったい、どういう意味だよ」
「なるほど。君にはちょっと、難しすぎたかもしれないね。しょせんは君なんか、にごった小さな水たまりのなかでいい気になっているおたまじゃくしに過ぎないっていう意味さ」
「このお」

男は赤ら顔をさらに真っ赤に染めたかと思うと、俺の顔めがけて拳をくりだしてくる。知らないのだろうか。いきなり相手の顔に殴りかかるのは、最もまずい手だてだということを。顔をねらったのでは避けられてしまう怖れが高いし、逆に自分は腕が上にあがっているため相手の拳が飛んでくるのを防ぐのが難しいのだ。俺の顔のわずか数ミリ横で男の拳が空を切った時、いきおいよく踏みこんできたその腹には俺の拳が二十センチもめりこんでいた。拳が腹へめりこんでいく音さえも、はっきりと聞きとれたような気がする。

「げっ」
それが誰であれ、腹の皮と背中の皮とがくっつくような衝撃をくらって無事でいられる奴などいない。ひとこと声にもならないような鈍い息を吐いたかと思うと、その場に男は崩れおちてしまった。そしてそのまま、立ちあがろうとする気力すらなくしてしまったようだ。もしかすると、内臓が破裂したのでなかろうか。そう考えるのが決して大げさでないほど、俺の拳は見事に男の腹へ喰いこんだのだから。

「てめえ」
それまで男の陰に隠れていた、ふたりの腰ぎんちゃくが気色ばむ。哀れな奴らだ。たったの一撃で兄貴分が倒されたのを見て、もはや自分たちの腕ではかなうわけもないことを悟っているはずだろうに。見栄や浮世のしがらみから、それでも一応は闘う素振りを見せなければならないだなんて。そんな彼らに、俺は優しく声をかけた。もっとも彼らには俺の声が天使のささやきなどではなく、地獄の悪魔の呪いに聞こえたのかもしれないが。

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