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猟犬ジョーに宿はない.4 [皆の恋話]

同じことを繰り返してばかりいると、何だか自分が馬鹿になってしまったように思えてくる。おそらく俺は、本当に頭が悪くなりつつあるのだろう。そろそろ俺の脳細胞も、すっかりアルコール漬けになりかけているはずの頃だ。女を捜してあちこちの街をさまよい歩くようになってからというもの、いつもアルコール度の高いライ・ウィスキーばかり飲みつづけているのだから。

「その望みは薄いわよ。この町に見知らぬ顔がやってきたら、ボスなんかよりも先ずこの店に噂が流れてくるはずだもの。ここはこんな小さな店だけれども、駅のまん前にある店はここひとつしかないわけだしね」
「で、そんな噂を君は全く耳にしていないって言うのかい」

「ええ。でも私が知らないだけで、マスターが何か聞いているかもしれないわ」
「じゃあマスターに聞いてみよう。それにマスターだったら、この町のボスと会うための手づるを何か知っているかもしれないしな」
「どうしてうちのマスターが、そのボスとやらに手づるがあるかも知れないだなんて思うの」

「そんなのは、わかりきったことだよ。どこであれ、ひとつの町を取りしきろうだなんて考える奴のやることなんか決まりきっているんだから。まずはその町の酒場と、あと女とを押さえるんだ。もちろんその上さらに、もっと危いものにまで手を出す場合もあるけどな。まず基本は、どこでも酒と女なのさ。そしてそのふたつが、ここにはそろっているわけだろう」
「ちょっと待って。それ、いったいどういう意味よ。お安く見ないでよね。こう見えてもこの店は素性の正しい飲み屋だし、私だって町の女なんかとは違うんだから」

「いや、そういう意味じゃない。気を悪くしたのなら、すまなかったな。そういうつもりで言ったんじゃなかったんだ。どの町にもいい女がいて、いい酒を出す店があるだろう。荒くれどもが仕事の帰りに立ちよっては一杯ひっかけていくのを、何よりもの楽しみにしているような店がさ。この町の場合、ここがそんな店なんじゃないのかい。そして町のボスともなれば、そんな店のことを決して見落としたりはしない。そんな店こそ他のどこよりもまず、その町の人と情報とが集まる所だからだ。したがってこの町のボスは、きっと何らかの形でこの店のマスターとつながりがあるはずだと思ったんだよ」

「なるほど、そういうわけね。とにかくマスターに訊いてみるといいわ。もうすぐ帰ってくるでしょうから」
「いや、そろそろ行かないといけない」グラスにわずかばかり残っていた酒を飲みほして、俺は立ちあがった。「マスターには、君から聞いておいてくれないか」

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