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別れを拒む女性を描く [恋愛小説などから学ぶ]

コンスタン『アドルフ』中村佳子・訳 光文社古典新訳文庫

 男の側では気持ちが冷めてしまったのに、恋人の女性とずるずるつきあい続ける物語です。
 作者の名前は Benjamin Constantで、題名の'Adolphe'は主人公の名前です。
 物語が始まった時点で、アドルフは二十二歳でした。そして女主人公のエレノールはアドルフより十歳、年上です。
 彼女はP伯爵の愛人で、P伯爵との間に子供が二人いました。
 ですから本作も若い男が年上の、人妻ではないものの他の男の愛人だった女性とつきあう物語だと言えるでしょう(この件に関しては当塾の「人妻に性を学び恋人に適用」の頁をご参照ください)。

 アドルフはエレノールのことが好きになって言い寄り、エレノールの側もアドルフを愛するようになります。そしてエレノールはP伯爵や二人の子供たちと別れ、アドルフとつきあい始めるのです。
 しかしエレノールに対するアドルフの気持ちは、物語の前半で早くも冷めてきてしまいます。にもかかわらずエレノールの側では、アドルフとつきあい続けることを望むのです。
 この件に関してアドルフの父の知り合いのT男爵は、アドルフに対して次のように語ります。

男であれば誰しも、生涯で一度は、不適切な関係を終わらせたいという欲求と、自分の愛した女を悲しませるのではないかという恐怖の間で、板挟みになるものです。若さゆえの経験不足から、ひとはそのような立場の難しさをひどく大袈裟に考えます。実のところ、ひとは恋人が見せる苦悩の表現を、どれも嘘ではないと勝手に信じているのです。そうした示威行為は、か弱い、情に流されやすい女性にとって、腕力、あるいは理性を用いるあらゆる手段の代わりになります。男の良心はそれに苦しみますが、自尊心はそれにうっとりするのです。だから自分が招いた絶望に、我が身を捧げようと誠実に考えるような男は、おのれの自惚れが見せる幻影に、おのれの身を捧げているにすぎないのです。この世にはそうした情熱的な女がうようよしていて、ひとり残らず、恋人に捨てられたら死んでしまうと言い張ります。ところがひとりとして死んでしまった女はいないし、立ち直らなかった女もいないのです

 このくだりを読んだ時に私は、違和感を抱きました。「男であれば誰しも、生涯で一度は」と書かれていますが、私自身は「不適切な関係を終わらせたいという欲求と、自分の愛した女を悲しませるのではないかという恐怖の間で、板挟みにな」った記憶がなかったからです。
 そして『アドルフ』の物語も、ここでT男爵が語ったのとは異なる結末を迎えます。

 光文社古典新訳文庫の一冊として出版された本作の「訳者あとがき」の中で、翻訳者の中村佳子は次のように書いています。

彼女はアドルフがもはや自分を愛していないことを知っています。もういやというほどわかっています。ただその事実を自分で否認し続けました。払った犠牲の大きさからも、それを認めることは耐えがたいことでした。幸い相手はその執行を怖がっていました。そこにつけこめばいいと無意識に考えたのです。彼女はアドルフの先手先手を打って逃げ道を塞ぎました。このあたりまでくると、彼女はもう加害者ですらあります。ただし、おのれのなかの真実は彼女を逃がしてはくれませんでした。決定的瞬間に向かって、じわりじわりと彼女を追い詰めたのです。
 わたしが『アドルフ』が実にユニークだと思うのは、このエレノールという人間像のリアリティなのです。これは本当にいるな、という女性をここまで書ける作家はそうざらにはいないと思います。

 同じ「訳者あとがき」の中で「わたしは女性です」と言っている中村佳子が「このエレノールという人間像のリアリティ」と書き、「これは本当にいるな、という女性をここまで書ける」とも評価しているということは――
 エレノールのような女性は実在する可能性があると、男性は認識しておくべきなのでしょう。

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アドルフ (光文社古典新訳文庫)


アドルフ (光文社古典新訳文庫)

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