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9番目の夢.23 [20才と31才の恋話]

(「9番目の夢.22」を読む)

「先輩、今夜は先輩ん所に泊めてもらっていいですか」
 つぐみや夏代たちのことを見送ってから敏男が昇に言う。
「別にかまわんぞ。明日は夏代も俺も仕事が休みだし」
「何だか先輩と語り明かしたい気分なんですよ」
「おう。じゃあ、今ちょうど俺の部屋にバーボンのボトルがあるからさ。それでも飲みながら話そうや」

 敏男が昇の部屋で泊まって行くのは決して珍しいことでない。ふたりが連れ立って昇の部屋へと着いたのは、もう0時近くのことだった。勝手知ったる我が家とでも言うかのように、案内もこわず敏男は先にたって部屋のなかへと上がりこむ。

「まあ、そこで座っててくれや。酒はストレートでいいんだろう」
「あ、すんません」
 昇はふたつのグラスにバーボンをついで、ひとつを敏男に渡した。

「じゃあ、とりあえず乾杯といこうぜ」
「何に乾杯するんです」敏男がこだわって訊ねる。
「さあな。何でもいいさ。じゃあ夏代の休学と勘当と引っ越しを祝って、ということにでもしておくか」
「それがはたして本当に祝うべきことなのかどうかは、大いに疑わしいような気もしますけどね」
「まだこだわっているのかよ。いいじゃないか、本人がちっとも落ちこんでいないんだから。俺たちが端でとやかく言ってみても、はじまるまいて」

「本当に落ちこんでいないんでしょうか。僕にはどうしても、そう思えないんですけど」
 そう言って敏男はグラスのバーボンを、ひとくち飲みくだした。乾杯をするという話は、いうの間にやらうやむやになってしまったらしい。

「ふうん。じゃあ敏男は何か、夏代が落ちこんでいないように見えるのはただ表むきの見せかけだけで、本当は落ちこんでいるはずだとでも言うのかい」
 自らもバーボンに口をつけながら昇が訊ねる。
「ええ。どちらかというと、そうじゃないかと思っています」

「いいかい。俺は毎日のように夏代と顔を会わせているんだぜ。見せかけなら見破れないはずはないだろう」
「そうでしょうか。先輩が何か思いちがいをしているということはないですか」
「敏男は一体どうしてまた、そんなふうに思うんだ」

「実はさっき、夏代からいろいろと話を聞きました。また彼女も珍しく、いろんなことを俺に話してくれたんですよ」
「ああ。二次会でしばらくの間、お前らふたりきりで何やら話しこんでいたようだったな。あの時のことか」
「ええ、そうです。夏代の奴、俺が訊ねることに答えるだけで、けっきょく最後までちゃんと俺の方を向いて口をきいてはくれませんでしたけどね。俺に対しては、とうとうずっと目をそらしたままで」

「へええ。でもそれじゃあ夏代の奴、その時いったいどこを向いていたんだろうな」
「なんかずっと、つぐみの方を見てたみたいですよ。俺から顔を背けるようにして」
「ああ、わかった。気にしなくていいさ。それは何も敏男に対して、顔を背けていたわけでもなんでもないはずだから」
「じゃあ何だっていうんです」
「夏代から見てつぐみの先に俺がいただろう。夏代の奴、愛しい俺のことを見つめて目がはなせずにいたんだよ、きっと」

 ちょっぴり意地悪だろうかとは思ったものの。夏代に気がある敏男のことを、昇は軽くからかってみてやりたくなったのだ。
「何ですか、それは。また、いつもの先輩らしくもない冗談じゃないですか」
「冗談に聞こえるかなあ。俺は本気で言ったつもりなんだけど」
「先輩、酔ってるんじゃないでしょうね。まあいいや。それはお互い様だから」

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