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ライオンたちのいる暮し.25 [17才の恋話]

 あっという間もなく二人は、かつて彼らが通っていた高校へ着いてしまう。門を入ったところでリュウたちは、ばったりシンとであった。
「よお、シンじゃないか。何やってるんだ、こんなところで」
「リュウとレイか。いや、実はね。今発表を見に行って来たんだが、大学落っこっちまったよ」

そういえばリュウさえもが忘れかけていたが、シンもまた一応は浪人生だったのだ。彼はバレー・ボールが、かなりうまい。部員が六人きりの頼りないバレー部を引き連れて、都の大会を勝ち抜いたこともある。そこで今年は体育の教師を目指し、国立を一つだけ受けていた。だがもともとシンについて言えば、浪人はしていても別に予備校へ通っていたというわけでもない。それどころか高校を出てからは、せっせとアルバイトに精を出している。真面目に受験勉強をやっていたような素振りは、あまり無かった。少しも浪人生らしい浪人生ではなかったと言えよう。幸いシンの父親は自ら会社を経営している。シンさえその気になれば、その会社に入ってゆくゆくは父親の後を継ぐこともできるはずだ。大学に落ちてしまった今、彼もその道を選ぶことになるのではなかろうか。

「で、これからいったいどうするんだい」
「まあ、ゆっくり考えてみるよ。何も急ぐことはないんだから」
「そうだな。それが一番いいだろうね」
「じゃあオレ、部に顔を出さなきゃいけないから、ここで」
そう言ってシンは体育館の方へ去って行く。どうやら後輩たちの練習につきあうつもりで来たらしい。

 リュウとレイは校庭をしばらくぶらついてみた。しかし他に知っている顔もなさそうだ。そこで早々と下宿へ戻ることにする。あいかわらず自転車に二人乗りをしたままで。話はどうしてもシンのことに落ち着くべくして落ち着いた。
「ひょっとするとアイツが仲間うちの男では、もっとも早く社会人になるかもしれないってわけか」
「色々な人生があるな」リュウがしみじみという。「何が幸せなのかは判らないけど、皆が色々なやり方で色々な幸せを追い求めて行く……」
「また、その話かよ」
いらだたしげにレイが口をはさんだ。だが、しかしリュウは一向に気にとめようともしない。

「レイはいいよな、唯ちゃんがいて。唯ちゃんを幸せにするってことだけでレイにとっては充分、立派に生きている価値があるってもんじゃないか。だからさあ、そのことで誰か他の奴がレイを妬んだとしても、決して文句を言わずに我慢しろよ。何せオマエは唯ちゃんみたいな女の娘とつきあうっていう、またとない幸せに恵まれているんだから」
「なに言ってんだい。そんなこと言うけど、これまでだってオレはもう充分我慢してきたんだぜ。口うるさい奴らに、どれほど嫌味を言われてきたことか。そのためにオレがどれだけ嫌な思いをしたか、リュウにわかってたまるかよ」

 リュウの部屋へ戻って来ると、レイは再び問題集に取りかかる。かたやリュウはぼんやりと窓の外を眺めて過ごした。彼もレイと一緒になって勉強をすればよかったのだろうが。しかしリュウはそばに人がいると、そういうことの手につかないたちなのだ。下宿の庭で、ちょうど今を盛りと咲いている梅の花が美しい。こぶしのつぼみも、そろそろほころびかけている。かつてリュウは、その花を白木蓮だとばかり思っていたのだが。百合子という花の名前を持った女友たちが去年、その花をこぶしだと教えてくれた。白木蓮はこぶしより一回り花が小さいそうだ。

 そうこうしているうちに陽が西へ傾く。起きるのが遅いと日の暮れるのが早いな。そんなふうにリュウは思った。その時、長いため息をついてレイが問題集を閉じる。そして彼は言った。
「腹へったな」
「何を言うか。たいして体、動かしてもいないくせに」
「いやあ、真面目に勉強していると腹が減ってかなわん。何もせず、ただぼけっとしていた誰かさんとはわけが違う」

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