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ライオンたちのいる暮し.24 [17才の恋話]

 リュウとレイはしばらくの間、とりとめもなく言葉を交わしあう。だがこう立て続けに会っていたのでは、お互いもはや話すこともそうたくさんは無い。やがて言葉がとぎれがちになりレイはおもむろに物理の問題集を取り出して、それと取り組みはじめた。ひとの下宿を自らの勉強部屋か何かのようにしか思っていないところは、あいかわらずだ。レイの熱心な勉強ぶりは仲間うちでも、よく知られている。高校の頃も暇さえあると図書室で物理や数学の問題を解いていた。かたやリュウの方はといえばそんなレイの傍らで、よく大江健三郎や安部公房なんかを読みふけったりしていたものだ。

「あいかわらず勉強熱心だなあ。ひとの家に来てまで問題集やるなんて」
「うん。ここの方が自分ん家でやるよりも、よほど落ち着けるからね。ここには気を紛らわすような余分な物が何ひとつとしてないし」
リュウの皮肉が通じた様子は全くない。それどころかリュウは、むしろレイから手痛いしっぺ返しをこうむってしまったようだ。

「まあいいや。お前はさ、ちゃんと一生懸命勉強しろよ」
「何だよ、いきなり」
「レイにはちゃんと勉強し、いい成績で大学を出て、そんでもっていい会社に入り唯ちゃんのことを幸せにしてやってもらいたいんだ」
「何だ。いったい何を言いだすのかと思ったら」

「でも俺、唯ちゃんにだけは幸せになってもらいたいからな」
「変な奴。それにそれって何だか、昔の男が言うようなせりふだと思わないか」
「えっ、昔の男って?」
「ほらさ。昔つきあっていた女と別れた男が、その女と新しくつきあいはじめた男に向かって言うような科白って感じじゃないか」

それまで隠していた嘘を言いあてられたかのようにリュウは思わず顔を赤らめた。しかしそれでも表むきは何くわない顔で、さらに言葉をつづける。
「そうかなあ、考えてもみなかったけど。でもまあ、とにかく唯ちゃんにはごく普通の幸せが似合いそうだからな」

「そう言うリュウは、どうなんだ」レイが顔を上げ、まっすぐリュウに向き直る。「普通の幸せを追い求める気があるのかい」
「いや、オレはだめだ。自ら世の中をドロップ・アウトしそうだから。それだけにレイたちには幸せになってもらいたいのさ」
「よせやい、そんな話」レイは再び問題集の上に顔を落とした。「今はまだ、あまり考えたくもない」

またしばらく、お互い言葉がとぎれる。だがやがて問題集がひと区切りついたらしく、レイが言い出した。
「どうだ。ちょっと学校にでも行ってみないか。こんな天気のいい日に野郎どうし、ふたりで顔を突きあわせているというのも考えものだからな。それに学校へ行けば、誰かに会えるかもしれないし」
「そうするか」とリュウも乗り気になる。「散歩がてらに行ってみるのも、悪くなかろう」
ここで言う学校とは、かつてリュウたちが通っていた高校のことだ。リュウの下宿からなら歩いても近い。それもそのはず。かつてまだ高校生だった頃リュウは下宿を選ぶにあたって、わざわざなるべく学校に近いところを探したのだから。

 リュウたちが連れだって下宿の外へ出てみると、そこにはリュウにとっても見慣れた自転車が一台とめられていた。
「何だ、今日はチャリで来たのか。珍しい」
「ああ。車は修理に出したままだし、マサの単車もそうずっと借りっぱなしってわけにはいかないからな」
「レイがチャリに乗ってるのを見るのは、すいぶん久しぶりな気がするぜ」
「どうする、後ろに乗って行くかい」
「ああ、そうさせてもらおうか」

リュウとレイは自転車で二人乗りをして走り出す。レイの自転車の後ろに乗るだなんてリュウにとっては、もはや何年ぶりかのことだ。ずっと前に、やはり一度レイと自転車で二人乗りをしたことがあった。あれは確か、もう三年近く昔のことではなかったか。

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