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ライオンたちのいる暮し.26 [17才の恋話]

レイはちらりと部屋の片隅に目を移す。そこには今朝彼が買って来た玉子が、まだかなり余っていた。
「どうだい。あの玉子を使ってスクランブル・エッグでも作ろうか」
「つったって、まだ晩飯には早すぎるぜ」
「かまうもんか。人間、腹の減った時に喰うのが一番うまいんだ」

それは全くその通りだとリュウも思う。そこで彼らは、まず米を砥いでメシを炊くことにした。それから、おかずの用意だ。レイが冷蔵庫の中を覗く。
「ハムが少しと、あとソーセージもあるな。よし、これを使おう」
彼はそれらを皆、みじん切りにした。そしてといた玉子の中にとじこみ、フライパンで焼く。
「ま、こんなものだろう。見てくれは悪いが充分喰えるはずだ」

一応それらしい物が出来上がったのでリュウとレイは、炊き上がったメシと一緒にそれを盛りつけた。レイが言うところのスクランブル・エッグは確かに、なかなかうまい。
「でも、これじゃ野菜が全く足りないぜ」
「なあに、野菜なんか一日くらい喰わなくたって死にやしない」
「そりゃレイにとっては一日くらいかもしれないけど、オレは下手をすると毎日そんなことが続かないとも限らないからな」
「言われてみれば確かに、よく体も壊さないでやってるよな。ひとり暮しを始めてから、いったいどれくらい経つんだっけ」
「あと何か月かで二年になるんじゃないか」
「もうそんなものか。オレも下宿したいと思うことがよくあるけど」レイは両手を広げ、手のひらを上に向けて見せる。「でもメシのことを考えると、やっぱし真っ平ごめんだね」

 食事を終えてからレイは、また問題集を続けた。結局この日彼が帰っていったのは二十時近くのことだ。レイが下宿を去ると、すぐリュウは唯ちゃんの家へ電話をかける。
「やあ、唯ちゃん。オレだ、リュウだよ。今日もレイがうちへ来てね。いま帰っていったところさ。もうすっかり元に戻ったみたいじゃないか。これもひとえに唯ちゃんがボクの言う通りにしてくれたおかげだ。本当にありがとう」
手短に話を切り上げてリュウは受話器を置いた。これでいい。もうこれからは何もかもが少しづつ、うまく行きはじめるに決まっている。まさかこれほど早く一件落着しようとは思ってもいなかった。だが今や全ては終わったのだ。そう考えてリュウは、ほっとため息をつく。

 リュウが唯ちゃんに電話をかけてから三十分も経たないうちに、キシベがリュウの下宿を訪れて来た。
「やあ、リュウ。ちょっとお邪魔するよ」
「どうぞどうぞ。久しぶりじゃないか」
「なに言ってるんだい。ついこないだも会ったばかりじゃないか」
「そう言えばそうだな。でもここ何日かの間にあまりにも色んなことがあったもんで、こないだキシベに会ったのがもうかなり昔のように思えるんだ」
「危ないなあ。ぼけの始まりなんじゃないの」
「なんでオレがこの齢でぼけなけりゃならないんだよ。それはそうと、国立どうだったんだい。もう発表あったんだろ」
「それがね、落っこっちゃったんだよ」
「そうか。残念だな」
「で、いろいろ考えたんだけどさ。やっぱり私立の方へ行くことにするよ。もう一年浪人する気には、とうていなれないからね」
キシベは既に多摩の方にある私立大学の史学科へ合格を決めている。少なくとも行くところはあるわけだ。そのため本命の国立大学を落ちても、そんなには暗くない。

「じゃあキシベも、これで晴れて大学生というわけだ。ここはやはり、おめでとうと言うべきなのかな」
「あまりめでたくもないんだけどね。でも贅沢は言っていられないから」
「そりゃそうだよ。オレだって本当は一浪して京大へ行くつもりだったけど、去年いまの大学に受かっちゃったからってほいほい入学したもんな」

「全く」ほんのちょっとばかし口をとがらせ気味にキシベは言った。「ちっとも受験勉強しないで大学、受かっちまうんだからさ。あの頃リュウの合格は、うちの高校の七大不思議の一つに数えいれられていたっけ」
「おいおい。誉めているんだかけなしているんだか、わからないような言い方をするんじゃない」
「もちろん、けなしているんだけどね。でも凄いと思うよ。でもって今日はその大先輩であるリュウ先生に、大学のことについて色々お聞きしたいと思って来たんだ」
「よかろう、何でも聞いてくれたまえ」
リュウは胸をそらし、いかにも誇らしげな声で言う。

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