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究極の愛を掴んだ31才.9-3 [20才と31才の恋話]

 ナツヨと一緒に働いていると、時間が経つのが早く感じられる。
 あっという間に昼休みの時刻が来たので、ボクはナツヨに声をかけた。
「ナツヨ、十二時になったぞ。きりのいいところで一息いれて、昼休みにしようぜ。今日の昼飯は、何を食べようか。近くの店で、まだ案内していないところが何軒か残っているけど」

 しかしナツヨは、そんなボクに言ったのだ。
「先輩、ごめんなさい。今日から私、お弁当を持ってくることにしたのよ。だから私にはかまわず、先輩はお昼を食べてきてくださいな。私はここで、お弁当を食べさせてもらうことにするから」
「へえ、本当だ」ナツヨが自分の荷物の中から取り出した弁当箱を見て、ボクは少し驚かされてしまう。「その弁当って、自分で作ったのかい。すごいじゃないか」

「今の私はお金がない分、食費も節約しないといけませんからね。早くお金を貯めないと、先輩から借りている分も返せませんし。先週までは友だちの家に居候させてもらっていたから、お弁当を作ってくるってわけにはいかなかったけど」
「ボクから借りている分なんか、返してくれるのはいつでもいいぜ。何度も言っているように、ボクは金には困っていないんだからさ」
「でも、だからと言って先輩に甘えすぎてしまうわけにはいきませんから。いつになるかお約束はできそうにないけど、なるべく早く返せるように努力しますよ」

「あいかわらず、そういう面では律儀な奴だなあ」そう感心させられたボクは、ふと思いついて言ってみた。「それじゃあナツヨ、こうしないかい。もしもよければ明日から、ボクの分も弁当を作ってきてくれないか。そうしたらボクは、それに対して代金を支払うからさ。その都度お金を渡してもいいし、ナツヨがボクから借りている分と相殺してもいいだろうし」

 しかしナツヨは、首を縦にふらない。
「そんなあ、そんなことできませんってば」照れたような笑いを浮かべながらナツヨは、そう言って手を横にふったのだ。「人様に食べていただくお弁当を、この私みたいな奴が作るだなんてね。自分の分だけなら、ありあわせの物でいいわけだから作れますけど」

 そこでボクは、ナツヨを伴わないで昼飯を食べに行くことにした。
 そして食事の後、駅前の電器屋へ立ち寄ってから会社ヘ戻ってきたのだ。
 ナツヨも当然、すでに弁当を食べ終えている。
「ほらナツヨ、これをあげよう」そう言ってボクは、手に持っていた大きな箱をナツヨの方へと差し出した。「ボクからの、引っ越し祝いだよ。アルバイトの就職祝いを兼ねている、と思ってもらってもいいけどさ」

 箱の外側には、中身の絵が印刷されている。だから中身が何か、箱を明けなくてもわかってしまうのだ。
「わあ、CDラジカセじゃないですか」ナツヨは驚いたらしく、目を丸くした。「いいんですか、こんなに高い物をいただいちゃって」
坂本龍一の曲を聴かないナツヨだなんて、ナツヨらしくもないからな」とっさにボクは、ふと思いついたことを口に出す。「まるで、そうだな。歌を忘れたカナリヤ、みたいな感じでさ」
「それじゃあありがたく、もらっちゃいますけど」喜んでくれたのだろう、ナツヨはにっこりと顔をほころばせた。「だけど何だか、プレッシャーを感じちゃいそうですよね。就職祝いも兼ねているだなんて言われると、真面目に仕事を頑張らなければ怒られそうで」

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