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猟犬ジョーに宿はない.9 [皆の恋話]

 気を失ったままの男を医者の元に残して俺は、女と連れだって再び外へ出る。すっかり夜が更けていて、まばたく星の輝きが冷たい。
「ありがとう。君には、すっかり世話になっちまったな。巻きこむつもりは、なかったんだが」
「いいのよ。これしきのことくらい」
「お礼にというわけではないが、家までおくらせてもらおうか。どうやらこの町も、君から聞いていたよりは物騒なところらしいし」

「それはお門違いというものよ。物騒なのは決してこの町じゃなく、むしろ貴方の方なんじゃない」
そう言いながら女は、まず自らが先に立って夜道を歩きはじめた。おくっていくという俺の申し入れを拒もうとする素振りはない。
「ああ。確かに、俺は物騒な男だよ。だけどそれは、あらかじめ言っておいたはずだと思ったぜ。この町で俺は、決して大人しくしているつもりなんかないってね」

「じゃあ貴方は、わざと襲われたとでも言うの」
「もちろん襲われたのは、ただの偶然にすぎなかったわけだけどね。でも、ちょうど渡りに船だったと言うべきなのだろう。どっちみち俺は、この町の荒くれどもとの間に何らかの騒ぎを起こしてやろうと思っていたんだから」

「いったい、どういうつもりなのよ。そんな危ない目に、自ら進んで飛びこんでいくだなんて」
「奴らは面子を気にするからな。俺が下っぱをのしてしまえば必ず、より強い奴がおとしまえをつけに来るはずだろう。よそから来た俺に身内を傷ものにされて、奴らが大人しく黙って引きさがるわけはないんだから。そうやって一歩づつ階段を登りつめるように進んでいけば、いつかは必ずやボスがじきじきお出ましになるんじゃないかと考えたのさ」

「ちょっと待ってよ。じゃあ、何。貴方はボスを引きずりだすまで、襲ってくる連中を全て倒しつづけるつもりだとでも言うの? それって、すごい自信じゃない。相手は本職のやくざ者だっていうのに。しかも次に貴方の前へ現れるのは、きっとさっきの奴なんかよりも強い相手のはずだわ。あまり自分の力を過信しない方がいいわよ。ここがいくら小さな町だからって、どんな強い奴がいないとも限らないでしょう」
「その時はその時さ。どっちみち相手を選べるわけではないんだし。それに俺は、ボスと会わずに済ませるわけにはいかないんだからな」

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