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9番目の夢.24 [20才と31才の恋話]

 グラスのバーボンを早くも飲み干してしまって、敏男は自ら二杯目をついだ。夏代たちと一緒にいた時から彼は、すでにかなりの量を飲んでいることになる。

「おいおい。俺をお前みたいな酔っぱらいと一緒にするなよな」
「そりゃあひどい。まあ、それはともかくとして、夏代がいろいろと話してくれたわけですよ。親から勘当されるに至ったいきさつだとか、引っ越し先の新しい部屋は空気が悪くて住み心地がよくないことだとか。お金が足りなくて、いろいろとやりくりに苦労しているというようなことなんかをね。そんなあれこれから思うに、今の彼女が落ちこんでいないはずはないとしか、俺には考えられないんですが」

「それは夏代が、そう言ったのかい」
「いや。本人はあくまで、今とても幸せなんだって言いはってます。でも今の夏代がおかれている状況を考えると、どうして幸せだなんて言えるのか、俺にはさっぱりわけがわかりゃしません」

「そりゃあ簡単なことさ。毎日のように俺と会えて、一緒に仕事が出来るわけだから。それで幸せなんだろう」しつこくも昇は、もう一度だめ押しをした。
「いったい、どうしたっていうんですか。今日はよっぽどおかしいですよ、その手の冗談を言うなんて。本当に、いつもの先輩らしくもない」

「だから言っているじゃないか。決して冗談じゃないんだってば」
「はいはい、わかりましたって。いい加減にしないと、本気で怒りますよ」
「ごめんごめん。敏男が真面目に話してくれているのに茶化してしまって申し訳ない。じゃあ冗談はさておいて、ええと、どういう話だったっけか」

「夏代って、何ていうか人前では表むき強がって見せちゃうところがあるでしょう。でも本当はすごい淋しがり屋で、本心ではその実けっこう落ちこんでいたりするんですよね。今回もそれなんじゃないかと気がかりでならないんです」

「敏男が夏代のことを気づかってくれる気持ちはよくわかるし、俺としても嬉しいよ」自らのグラスに二杯目のバーボンを注ぎながら昇は言葉を続ける。「でもさ。今の夏代にはまがりなりにも俺が毎日ついていてやっているわけだから。にもかかわらずあまり心配されたんじゃあ、俺の立場がないというものだよな」

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