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猟犬ジョーに宿はない.2 [皆の恋話]

「ちょっと教えてほしいんだが。この町のボスと会うためには、いったいどうすればいいんだろう」
いつだって、知りたいことは単刀直入に訊ねるのが一番だ。

「えっ。ボスって」
「この町をとりしきっている奴のことさ。言いかえるならこの町で一番、自分のやりたいことを好き勝手にできる奴のことだな」
「知っているわけがないじゃないの、そんなこと。私はただのしがないウエイトレスにすぎないんだから。この町にボスなんてのがいるのかどうか、ということさえも私にはわからないわ。そういうことだったら、その筋のお兄さん達にでも聞いた方が早いんじゃないかしら」
どうやら俺は探偵に商売がえをしても、立派に喰っていくことができそうだ。町で出会ったこんな若い娘ごときに、その町のボスと連絡をつける手だてを訊くなんて。

「なるほど、それを聞いて安心したよ。どうやらこの町は健全らしいとわかったからな」
「えっ、どうしてそういうことになるの」
「飲み屋で働いているウエイトレスがその町のボスを知っているようじゃ、よほどそいつが幅をきかせているってことだろう。でもまともなボスなら、決してそんなやり方はしない。誰が町をしきっているのかということをわからせないように、あくまでも自分は陰から人々をあやつって動かすのが洗練されたやり方っていうわけさ」

「で、ボスが洗練されたやり方をしていれば、その町は健全だって貴方は思っているわけね。でも普通に考えれば健全な町っていうのは、むしろボスなんかがいない所のことなんじゃないの」
「ボスがいない町なんて、ありえないんだ。そんなのは子供のお伽話に出てくる町だけさ。実際にあるのは、ただ2つの町の間の違いだけなんだよ。ボスがいて誰もがそのことを知っている町と、ボスがいるけど普通の人はそのことに気がついていない町との間の」

「貴方の言っていることの方が、よっぽど変に聞こえるわよ。くだらないハードボイルドあたりを読みすぎて、頭がおかしくなった人の話か何かみたいに」
「ハードボイルドは、くだらなくなんかないよ。くだらないのは、つまらない小説をハードボイルドと名づけて売っている奴らの方さ」
ちょっとの間、女は首をかしげて考えこむような素振りを見せた。しかしすぐに考えるのをやめてしまったようだ。決して俺の言ったことが納得できたわけでないのは、その顔つきを見ていればわかる。

「どちらでもかまわないわ、私には。そんなことより、そのボスとやらに会っていったいどうしようって言うの」
「人を捜しているんだ。ボスなら何か知っているか、あるいは少なくとも見つける手だてを教えてくれるんじゃないかと思ってさ」

「貴方が捜している相手って、女の人ね」
「ああ、そうだよ」私は認めた。「どうしてわかるんだい」
「なんとなく、そうじゃないかって思ったのよ」しばらく間をおいてから、女は言葉を続ける。「それに男の貴方がわざわざ見知らぬ町まで捜しに来たっていうんだもの、相手が女の人でないはずはないわ」
「どうやらこの町では、誰でも探偵を名のる資格があるようだな」
「勘違いしないでね。何も詮索をしているわけじゃないのよ。私はただ、思いついたことを口に出してみただけなの」
「安心してくれ、少しも迷惑だなんて思っていないから。詮索されているなんて言うつもりじゃなかったんだ」

「よかった。でもちょっと羨ましいような気がするわね。女が男に捜されるだなんて、何だかちょっと素敵じゃないの。いかにもお話のなかのことみたいで。私も生きている間に一度でいいから、貴方みたいな人に捜し出されてみたいわ」
「よしてくれよ。捜して歩く方にとっちゃ、ちっとも素敵な話なんかじゃないんだからさ」

「ねえ。どうしてもその人を捜さなくっちゃならないの? その女の人は別に、さらわれたとかいうわけではないんでしょう」
「ああ、確かにな」
「だったら放っておけばいいじゃない。何も貴方をおいて逃げ出すようなつれない女の人のことを、わざわざ追いかけたりしなくても。いい女は、どこにだっているはずよ」
「この町にもかい」
「ええ。貴方がお望みならね」

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