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相手に染まる女が可憐? [恋愛小説などから学ぶ]

アントン・チェーホフ「かわいい女」新潮文庫など

 本作の女主人公は最初、劇場のある遊園地を経営しているクーキンという男性と結婚します。
 そして、すっかり「劇場主のおかみさん」としてふるまうようになるのです。
 そんな様子が本作では、たとえば次のように描かれています(神西清氏による邦訳から引用させていただきます。以下も同様です)。

芝居や役者についてクーキンの吐いた意見を、彼女もそのまま受け売りするのだった。やはり良人と同様彼女も見物が芸術に対して冷淡だ、無学だといって軽蔑していたし、舞台稽古にくちばしを出す、役者のせりふまわしを直してやる、楽師れんの行状を取り締まるといった調子で、土地の新聞にうちの芝居の悪口が出たりしようものなら、彼女は涙をぼろぼろこぼして、その挙句に新聞社へ掛け合いに行くのだった。

 しかし間もなく、クーキンは死んでしまいます。
 そして女主人公は、ヴァーシチカという愛称の男性と再婚します。
 このヴァーシチカは材木置場の管理人だったため、女主人公は今度は「材木置場の管理人のおかみさん」としてふるまうようになります。
 たとえば、次のようにです。

「当節じゃ材木が年々二割がたも値あがりになっておりましてねえ」と彼女はお得意や知合いの誰彼に話すのだった。「何せあなた、以前わたしどもでは土地の材木を商っておりましたのですけれど、それが当節じゃヴァーシチカが毎とし材木の買い出しにモギリョフ県まで参らなければなりませんの。その運賃がまた大変でしてねえ!」そう言って彼女は、さもぞっとするように両手で頬をおさえて見せるのだった。「その運賃がねえ!」

 でもやがて、ヴァーシチカも死んでしまいます。
 そこで女主人公は次に、彼女の家の離れを借りて住んでいた獣医の男性と親密な仲になるのです。
 そんな様子が本作では、次のように描かれています。

「わたくしどもの街では獣医の家畜検査というものがちゃんと行なわれておりませんので、そのため色んな病気がはやるんでございますわ、のべつもう、人様が牛乳から病気をもらったとか、馬や牛から病気が感染なすったとか、そんなお話ばかり伺いますのねえ。まったく家畜の健康と申すことには、人間の健康ということに劣らず、心を配らなくてはなりませんわ」
 彼女の言うことは例の獣医の考えそのままの受け売りで、今では何事によらず彼と同じ意見なのだった。してみればもはや、もともと彼女は誰かに打ち込まずには一年と暮らせない女で、今やその身の新しい幸福をわが家の離れに見出したのだということは、語るに落ちた次第だった。

 恋人や夫の仕事や立場や意見に染まってしまう女性がかわいい―――
 本作の題には、そんな作者の女性観が込められているのでしょうか。
 そのような女性をチェーホフが「かわいい」と称したのには、皮肉の気持ちが込められている可能性も考えられそうですが。

 しかし「恋人や夫の仕事や立場や意見に染まってしまう女性がかわいい」という考えは、女性の側が抱く場合もあるようです。
 たとえば雑誌『週刊文春』には「小林麻耶のいつまで独身?」という題の文章が連載されていますが、2015年の9月24日号に掲載された回には「好きな人ができたら、その人の色に染まりたいし、」と書かれていました。
 ただし、そのすぐ後では次のように書かれているのですけど。

 と、熱くスギちゃんに語ったら、「その人の色に染まりたいのは期間限定なんですよね?」と冷静な一言。
「まぁ、最初はその人色なんだけど、いつの間にか自分の色が出ちゃってるよね~」とどんどん小さな声になってしまいました。

「いつの間にか自分の色が出ちゃ」うのは無理もないですし、当然のことだと言えるのではないでしょうか。

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かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)


可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)


チェーホフ全集〈8〉 (ちくま文庫)

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