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迷い鳥.6 [16才と27才の恋話]

「けなされているのか誉められているのか、わからないような言い方じゃない。いいえ、やっぱりけなされていることになるわけか。でもこれじゃあ何だか喜んでいいのか怒るべきなのか、さっぱり見当もつかないわ。こんな私のことを好きでいてくれるっていうセンパイの気持ちに対しては、むしろお礼を言わなければならないのかも知れないけどね。それも私の気ままや我がままを少しも叱ったりなんかせず、ありのまま受けいれてくれているってことに対しては」

「まあ確かに僕は夏代に対して本気で腹をたてたりなんか、とうていできそうにないからなあ。たとえ夏代が何をしでかそうとも、そうせずにいられなかった夏代の気持ちがまるで我がことか何かのように身にしみてわかる感じでさ。これまで夏代が育ってきた生いたちだとか、あるいは家の人との間の話なんかを聞かせてもらって知っているだけにね。どうしても咎めだてができずに、ついつい許してしまおうという気になるんだよ。こういうのはむしろただの甘やかしに過ぎず、かえって夏代のためにはならないんじゃないかと川木あたりには言われてしまうのかも知れないけれど」

「でも、そう言ってくれる人がいるというだけでも私は救われる気がするわ。私のまわりにいる他の人たちって皆、こちらの言い分を聞こうともせず頭ごなしに叱りつけてくるだけなんだもの。そういう人たちばかりだと私だって、逆らってやろうじゃないのと意地をはらずにいられないんだけどさあ。一人でもセンパイみたいな人がいると、もっと素直になって期待に応えなくっちゃという気になれるのよ。ああ、この人は私のことをわかってくれているから裏切ってしまうわけにはいかないって思って」

「夏代にそう言ってもらえると、僕も嬉しい気がするな。何だか僕の生き方が決して間違ってなんかいなかったんだって、お墨つきをもらえたみたいでさ。こういうのってもしかするとただ単に、お互い相手の傷をなめあっているだけなのかも知れないけれど。でも傷のなめあいなら傷のなめあいで、それでもいいんじゃないかという気がしているんだよ。少なくとも僕にはひとり夏代という、互いに傷をなめあえる仲間がいるということになるわけだから。自分のことばかりにかまけてしまって、身近な誰かの傷をなめて癒してあげることさえできずにいるような世の中の多くの人たちとは違ってね」

「センパイと出会えて私、本当によかったな。センパイのこと知らなかったら私って、いったいどうなっていたか自分でもわからない気がするもの。すっかり世をすねて、ひねくれちゃっていたことだろうし。あっ、いっけない。今でも充分ひねくれているじゃないかって責められたら、何も言いかえせそうにないわね」

「何もそんな、自分で自分のことを責めたりなんかしないでもいいだろうさ。夏代は自分の思ったとおり、好きなように生きていけばいいんだよ。やれひねくれているだとか素直じゃないだとか、そんなまわりからの声には全く耳を傾けたりしないでね。そういう声って詳しい事情を知っているわけでもないっていうのに、ただ無責任な気軽さで言いたいことを言っているだけに過ぎないんだから」

「センパイと話をしていると、本当に気が楽になるみたい。だけどね、センパイ。実を言うと私センパイに対して一つ、お詫びしなくちゃいけないことがあるの」そういって夏代は、ふとそこでいったん言葉を切る。そして口を堅くとざしたかと思うと、まるで心を決めようとするかのように天を仰いだ。北山にも破ることのできそうにない、気まづげな沈黙の数秒間が流れていく。しかし夏代は、やがて自らの内なる闘いに敗れさってしまったのだろう。口元にこめていたこわばりを解いたかと思うと、力なく言葉を吐きすてた。「ううん、やっぱり駄目だわ。こんなこと、とうてい私の口からセンパイに言ってしまうというわけにはいかないもの」

「何だよ、気になるじゃないか。そこまで言いかけておきながら、途中でやめてしまったりされたんじゃあな。そりゃあもちろん僕だって何も夏代が言いたくないということを、無理に聞きだしたりしようとは思わないけどね。だけど、もしもだぜ。それを聞いた時に僕がどう感じるかということを、もしも夏代が気にやんでいるんだったとしたらばさ。どうか遠慮なんかしないで、思いきって話してみてもらえないか。夏代に何を言われようとも、そんなことで僕が気を悪くしたりなんかするはずはないんだから」

「ううん、そうじゃないの。そんな、センパイの気持ちを気づかって言いよどんだりしているのとは違うのよ。そういう立派な理由があるわけなんかじゃなくて、ただ単に私は怖れているだけなんだもの。こんなことを打ち明けてしまったりしたらセンパイに嫌われて金輪際、相手にしてもらえなくなってしまうんじゃないかということを」

「なあんだ、そういうことだったら話は簡単じゃないか。だって僕が夏代のことを嫌いになったりするわけなんか、どこにもあるはずがないんだものさ。たとえ夏代が何をしでかし、口にできないどんな秘密を抱えこんでいるのだとしてもね。どうか怖がらずに、どんなことでも話してみてごらん。何を聞かされようとも僕は決して腹を立てたりなんかしないし、おそらく驚きもしないでいられることだろうと思うから」

「いいえ、駄目だわ。だってセンパイはきっと驚くだけじゃすまないで、おそらく私に対して腹も立てるに違いないんだもの。私のしでかしてしまったことの重みを考えるとね。そりゃあセンパイの人柄からすると、もしかしてセンパイ自身の身の上へふりかかってきたことなら許してくれるかも知れないわよ。だけど他人の身にまで及ぼしてしまったことに対しては、決して見のがしてくれたりなんかしないに決まってる。センパイがとても他人思いで、私たち一人一人のことを大切に考えてくれているだけに」

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