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迷い鳥.5 [16才と27才の恋話]

「あ、ちょっと待ってくれよ。これはたった今、思いついたばかりのことなんだけどさ。もしかすると君たちの組み合わせこそが、何かうまい具合に働いたのかもしれないぜ。つぐみや元太みたいな奴らが一方にいて、その一方で夏代みたいなのもいるっていう組み合わせがね」
「えっ、それって一体どういうことかしら」

「つぐみや元太たちってほら、実にしっかりしているじゃないか。進むべき道を見さだめて、誰の助けを借りようともせず自分ひとりだけの力で歩いていくことができるっていうふうにさ。でもってそういう姿を見ていると端の者としては、ついつい何か手伝ってあげたいという気になるわけだろう。だけど彼らは人の手助けなんか、はじめから求めてもいないからな。こちらに手を貸してあげたいという気だけあっても、そいつは空ぶりに終わってしまうというわけだ」
「確かに元ちゃんたちってそういう、人の手出しを寄せつけないみたいなところはあるようね。いけないなあとは私も自分で思うんだけど、いつもこっちがお世話になったり迷惑をかけたりしちゃいっぱなしで」

「だけど何かしてあげたい気持ちはあるのに何もできないっていうのは、けっこう辛いものだと思うんだよ。受験を控えている子供を抱えた親の気持ちだなんていうのも、わりにそういう感じなのかも知れないな。とても気がかりではあるけれど、だからといって自分が何か手出しをしてみたところで何の役に立つわけでもない。結局は相手に全てをまかせて、自分はただなりゆきを見まもることしかできないっていうわけだから」
「受験だなんて、辛いのは本人だけかとばかり思っていたわ。だけどセンパイからそういうふうに聞かされると、確かに親も大変なんだろうなあっていう気がしてくるわね。思いだしてみれば、うちの親だって兄が大学を受験する時には大変だったもの。自分がおろおろしちゃったりしてさ。私の受験に関しては、ちっともそんな気にかけてくれてもいないみたいだけれど」

「そりゃあ親御さんだって、二度目には慣れがあるものさ。初めての子供が生まれた時にはうろたえるけど、二人目の時には大きくかまえて動じないというのと同じでね」
「何だかセンパイって今日は、うちの親の肩を持ってばかりいるみたい。センパイって私たちより親の世代に齢が近いから、それだけ人の親の気持ちもわかりやすいということなのかしらね」

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迷い鳥.4 [16才と27才の恋話]

「センパイが鈍いんだとしたら、きっと世の中に気の回る人なんて一人もいやしないってことになるんじゃないかしら」
「そんなこと、決して言いきれやしないはずだと思うぜ。だって君たちと同じ齢の頃の自分を今の元太と比べてみたら、とうてい僕に勝ち目なんかありそうもないもの。でもまあ今の僕と今の君たちとを比べてみたら、いくらかは一日の長ってやつを認めてもらえるんじゃないかと思っているのさ。もちろん僕だって何も、全ての面において君たちに差をつけることができているだなんて言うつもりはないけどね。そんなことをもしも僕が考えたとしたら、それは思いあがりと言わないわけにいかないのだろう。でもたいていの分野においてなら君たちに比べて少しは、より遠くまで目を届かせることができているはずなんじゃないのかな。それに体力だってまだ、君たちよりは上回っているはずなんだし」

「そりゃあ体力でセンパイに勝とうって人は、誰もいないっていうものでしょう。ただ一人、川木先輩のことを別にしたらの話ですけれど」
「うん、そうだね。川木と比べられたら最後、およそ体力じゃ僕には勝ち目がなさそうだ。奴は山へ登るため、日頃からかなり体を鍛えていたみたいだからな。だけどそれ以外の奴が相手なら、まだ誰にも負けない自信があるぜ。でもって僕は君たちのためにこそ、この力を役立てたいものだと願っているんだよ。もしもこの僕に何がしかの力を備えることができているのだとしたら、それは若い君たちとの関りあいの中でこそ培われたものに他ならないんだからさ。若い君たちと僕との間で、お互いに心をかよいあわせることを通じてね」

「だけどどうしてそれが私たちのおかげというか、私たちのせいで身についたっていうことになるの。それってセンパイが自分で努力して、そして勝ちとった力なんじゃないのかしら。私たちなんかとは全く何の関りもなく、ましてや私たちのおかげなんかでもなしに」
「だって君たちと出会う前の僕には、まだそんな力を備えることができずにいたんだもの。確かに夏代は君たちと出会ってからの僕のことしか見ていないわけだから、それ以前の僕を知らないのは当たり前なんだろうけどさ。自分で言うのもおかしいけれど君たちと出会う前の僕って、わりにさめた冷たい奴だったと思うんだよ。およそ他人の考えなんか、気にかけたこともなかったものな。他人にどう思われようともかまわないし、君らは君らで勝手にやってくれって感じでね」

「そういうのって何だか今のセンパイからは、ちょっと想像がつきにくいみたい。でもそう言えば川木先輩から、いつだったか教えてもらったことがあったわ。昇の奴は何も昔から今みたいに人あたりが良かったわけじゃない、前はもっと気むづかしくてとっつきにくい奴だったんだって」
「うん。だからこそ川木とだけは、昔から互いに仲のいい友だち同士でいられたんじゃないのかな。ほら、あいつもけっこう他人に対して心のうちをさらけだしたりすることのない奴だしさ。あまり相手のなわばりにまで深入りしないという取りきめが、奴と僕との間では自然にできていたみたいだからね。そういう一線を引きでもしないかぎり奴とだって、とうてい長くはつきあってこられなかったんじゃないかと思うんだ」

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迷い鳥.3 [16才と27才の恋話]

「つぐみや私たちに対するセンパイの気持ちが、いわゆる男女の間の愛ではないけれどって話でしょ。そういう気持ちを抱くには、齢が離れすぎているからって」
「そうそう、そうだったな。だから僕は時おり、思ってみることがあるんだよ。どちらかというと君たちに対する僕の気持ちは、父親が娘に対して抱くそれに近いんじゃないかとね。でもって、だとするとそれは相手の性別に関りのない気持ちだということになるんじゃなかろうか。そりゃあ父親は、娘のことを愛するだろうけれどもさ。他に息子もいたとしたならば、息子のことだって娘と同じくらい可愛く思うに違いないんだから」

「必ずしも、そうと決まっているわけじゃないみたいよ。うちの父は兄ばかり可愛がっていて、私のことなんかどうなっても構わないと思っているようだもの。いつだったかセンパイにも、お話したことがあったように」
「そう言えば昔、そんな話を聞かせてもらったことがあったっけ。あれからもう一年ちかく経ったんで、すっかり忘れかけてしまっていたよ。夏代に対して父親のたとえを持ち出したのは、もしかすると少し考えが足りなかったのかも知れないね。だけど夏代のお父さんだって、何も夏代のことを全く愛していないってわけではないんだろう。ただちょっと気持ちの表し方が下手くそで、夏代にはうまく伝わらずにいるというだけのことなのかも知れないんだしさ。おそらく父親ってものは年頃の娘に対して、どういうふうに接していいのかわからずに戸惑ったりもするものなのだろうからな」

「センパイの話を聞いていると、何だか本当にそうなんじゃかっていう気がしてくるから不思議なものよね。でもまあ、そんなことはどうでも構わない話だわ。うちの親のことを気にかけたりなんかせず、どうぞ先ほどセンパイがしかけていた話を続けてちょうだい」
「うん、それでさ。つまり僕が言いたかったのは、何も女の子たちばかり愛しているというわけじゃないんだぞってことなんだ。だって僕は元太や英三たちのことも、つぐみや珠枝と同じくらいに好きなんだからさ。とりわけ、そうだな。つぐみと元太あたりだともはや、どちらのことを余計に好きかだなんて比べてみるだけでも無駄というものなんだろうね。つぐみのことの方がちょっとだけ余計に好きなんじゃないかって思える日もあったりするけれど、逆に元太の方が好きかなと思う時だってあるんだし」

「でも時や場合なんかによって、わずかな違いは決してないわけじゃないということね。私たち皆のことを、それぞれ全く同じだけ愛しているというわけではなくて」
「そりゃあ僕だって生身の人間なんだもの、好き嫌いくらいあるのは仕方がないだろうさ。もちろんそれは、あくまでも僕の心の中だけでの話なんだけれどね。とはいえ君たちに接している時、それを君たちに対して表してしまってはならないんだろうな。それはすなわち君たちのうち誰か特定の相手だけを他の皆より、えこひいきしてしまうという羽目に陥ってしまいかねないわけだから。たとえそれが、どれほどわずかな差でしかなかったとしてもだ」

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迷い鳥.2 [16才と27才の恋話]

「もしかするとセンパイって、けっこう危ない性格の持ち主なのかもしれないわね。それって何だかちょっぴり、まるでマゾヒストか何かのように聞こえるもの」
「そりゃないだろう。だって僕は相手が誰であれ、困らせられたり振りまわされたりするのが好きだっていうわけじゃないんだから。僕がそれを甘んじて受けいれられるのは、あくまでも相手が夏代であればこそなんだぜ。もしもこれが夏代でなく他の誰かだったとしたならば、やはりちょっとは腹を立てたり気を悪くしたりせずにいられないんじゃないかと思うよ」

「だけどセンパイは、つぐみのことも好きなんでしょう。何も私にかぎった話じゃなく、つぐみが相手でも何だって許してしまえるんじゃないの」
「それはまあ確かに、夏代の言うとおりかも知れないね。つぐみはつぐみで、また実に気立てのいい子だものなあ。夏代に比べると、かなり性格が違っているみたいだけどさ」

「つぐみみたいな女の子の方が、むしろセンパイには似合っているんじゃないかしら。つぐみだったら、つきあっていても手がかからないだろうし。こんな私なんかとは違って、センパイを困らせたり振りまわしたりするようなこともないはずだから」
「ううむ、それはどうだろう。もちろん僕も、つぐみのことは大好きだけどね。でもほら、つぐみってどちらかと言うとさ。あまり他人に頼ろうとせず、何でも自分ひとりで乗りこえてしまおうとする方じゃないか。まあ、そういう芯の強さがあればこそ一人で留学したりもできたのだろうけど。ただ僕としては正直な話、ちょっと淋しい気がするっていうのも確かだな。つぐみも夏代のように僕を信じて、もっと僕のことを頼ったり悩みを持ちかけてきてくれたりすると嬉しいんだが」

「何だかセンパイの話を聞いていると、かえって気が滅入っちゃうような感じだわ。まるで自分がいつでも誰か他人に頼ってばかりいる、甘ったれた情けない女だと言われているみたいな気がしてきちゃってさ」
「あ、そいつは申し訳ない。信じてもらいたいんだけど、そういう皮肉めいたことを言ったりするつもりは全くなかったんだ。もしもそういう感じを与えてしまったとしたら、それは僕にとっても不本意なことだよ。だけど確かに夏代の言うとおり、もしかするとむしろいけないことなのかも知れないね。若い君たちが何でも自分たちだけの力でやってみようとしているって時に、あまり僕のような年寄りが口や手を出しすぎるっていうのはさ。それはすなわち君たちの力を信じることができずに、頭から疑ってかかってしまっていればこそなのだろうと考えてみると」

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