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愛の終着 愛の執着.1-1 [皆の恋話]

 ほとんどの恋が、いつかは冷める。
 これは、れっきとした現実だ。
 恋する気持ちは普通、数年ほどしか続かない。
 たとえ気持ちが冷めないうちに相手と結婚したとしても、その後ずっと恋愛感情が続くという例は極めてまれだ。
 たいていは恋愛感情などでなく、もう少し違った別の気持ちに変わってしまう。
 相手のちょっとした科白や仕草に、どきどきと胸をときめかせる時期は長くは続かない。そして恋愛というよりは、もっと穏やかな親しみの感情へと変わってしまうのだ。

 もちろん全ての恋愛や結婚が、そんな穏やかな愛情に移行していけるわけではない。それはどちらかというと少数派で、むしろ相手に対する気持ちがすっかり冷めてしまう場合の方が多いのだろう。
 結婚へ至る前に別れてしまった恋人や、たとえ結婚していても互いに愛が冷めてしまって仲が悪い夫婦の例は世間に多々ある。
 恋をしているさなかには、永遠の愛を誓いあったのかもしれない。この恋がいつまでも続いてくれればいいと願ったし、続くはずだと信じていたのかもしれない。
 それでもやはり、ほとんどの恋がいつかは終わってしまう。
 にもかかわらず、どうして恋する気持ちの冷める瞬間を描いた物語は少ないのだろう。
 恋の始まる瞬間を描いた物語は、こんなにも世の中にあふれているというのに。

 ゆっくりと、波が引くように少しずつ冷めていってしまう恋もある。
 その一方で、ある時いきなり急に冷めてしまう恋もある。
 必ずしも特別な理由やきっかけは、なくてかまわない。
 ふと夢からさめて我に返った時のように、それまでの恋が過去のものに感じられてしまう瞬間がやってくることもあるのだ。

 そんな「瞬間」がまさしく今日、忍の身にも訪れた。
 これまで続いていたはずの彼女の恋が、ふと急に霧が晴れる時のようにどこかへ消え失せてしまったのだ。
 とりたてて何か、特別なきっかけがあったわけではない。
 そうなりそうな予感や兆しの類を、事前に何か感じていたというわけでもない。
 恋する気持ちが最近は少し弱まりかけていた、という自覚があったわけでもない。
 恋を冷ましてしまいそうな事態に、何か出会ったというわけでもない。
 ただ単に彼女は一人で、雨上がりの街を歩いていただけだ。

 ひさしぶりの雨は、まるで街ごとすっぽりと洗い流したかのように清めてくれる。
 あちこちに残った水滴を雨上がりの明るい陽ざしが照らし、きらきらと宝石を散りばめたかのように輝かせてくれる。
 空気の汚れをも雨が洗い落として、すっかり透明に澄みわたったように感じられる。
 重くよどんでいた街中の空気が、どこか山の上の新鮮なそれと入れかわってしまったかのようだ。
 街路樹の緑も雨上がりの陽ざしを浴びて、一枚々々の葉っぱが光を乱反射している。
 八百屋の店先に並んだ色とりどりの果物までもが、いかにも新鮮そうにみずみずしく輝いて見える。
 行き交う人々の顔つきも、雨が上がった喜びを満喫しているかのように、誰もが明るい笑みを浮かべている。

 そんなまばゆさやいろどりの中で、何もかもが普段と違って新しそうに感じられたのだ。
 いつも見慣れていたはずの街の景色が、まるで新しく生み落とされたばかりのように思われたのだ。
 そんな景色の中を歩いていた忍は、まるで自分もまわりの景色の中へ溶けこんでいくかのように感じた。
 そして目新しく見える景色の中で、まるで自分まで新しく生まれ変わったかのような思いを味わった。
 つい先ほどまでの自分とは違う、全く新しい自分が今ここに生れ落ちたかのように感じた。

 そしてそんな新生感とでもいうべき思いの中で忍は、ふと気づかされたのだ。
 これまで抱いていたはずの丈士への恋愛感情が、いつの間にやら自分の心の中から消えてしまっているということに。

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