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此処より他の場所.6-1 [皆の恋話]

 無職というのは、とても人聞きの悪い言葉だとされている。なぜならひとは誰しも、みな必ず働かなければならないと考えられているからだ。そんなひとびとの考えにさからい、あえて働かずにいる者はとかく白い眼で見られ蔑まれてきた。何らかの仕事についていさえすれば、その仕事が何であれとりあえずよしとする。そんな考えが広くひとびとの間にはあるのだろう。しかも彼らの考えは憲法によって裏づけられているというのだから頼もしい。日本国憲法第二十七条の第一項には次のような言葉が、はっきりと高らかに掲げられている。
「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」

しかしなぜ、ひとは働かなければならないのか。これはごく素朴な疑問だ。この問いに答えることのできるひとなど、まずいまい。もちろん働かなければ暮していくことができないからだという答えかたは、これまでも度々なされてきた。だがこれは決してまともな答えといえないだろう。確かに働かなければ暮していけないひとは数おおい。彼らにとって働くことは、もはやせっぱつまった必然だといえる。しかしそのかたわらで、この世には働かなくとも暮していくことのできるひとびとが、かなりの数いるのだ。彼らまでもが働かなければならないとしたら、それはいったい何ゆえか。

 もし働くことが良いことだとしたら。確かにひとは働かないでいるより少しでも働いたほうがいいにちがいない。だが、はたして働くことは良いことなのか。もし今の世のなかがよい世のなかであるならば。いうまでもなく働くことは、もちろん良いことだろう。働くということは世のなかのしくみを動かす歯車のひとつになるということだ。それは世のなかのしくみにまきこまれるということでもあるし、世のなかのしくみをささえるということでもある。もしその世のなかのしくみが良いものであったとしたら。それをささえることも、また良いことであるのは言うまでもあるまい。しかし今の世のなかのしくみは本当にいいものなのだろうか。

 いったい今の世のなかのしくみは何のためにあり、何を目ざしているのだろう。ここのところが、まずよくわからない。だがわからないのは、あたりまえなのだ。それは何のためでもなく、何を目ざしてもいないのだから。

 今の世のなかのしくみは何らかのためにあるのではなく、世のなかのしくみそのもののためにのみあるものとなりはててしまった。もちろん貧しい多くのひとびとは金をもうけ、そのもうけた金で暮しむきをよくするために働くのだろう。しかし資本家と呼ばれるようなひとたちは、せっかくもうけた金をまたさらにいっそう大きな金もうけのためつぎこんでしまう。もともとは何らかの目あてをはたすための手だてにすぎなかった金をもうけるということが、そこではいつのまにか目あてそのものにすりかわってしまっているのだ。

 そんな彼らに、いったい何のためそんなにも金をもうけつづけるのかと試みにたずねてみよう。彼らのうち、はたして何人がこの問いかけに答えうるだろうか。それでも何人かは答えるかもしれない。例えば日本の経済を発展させるためだなどと。そのとき彼らに対して、もう一度たずねなおしてみよう。いったい何のために日本の経済を発展させるのかと。ここでゆきづまってしまう者が多いにちがいない。ひとびとの暮しを豊かにするためだなどと、たとえ建前ででも答えることのできる者はむしろ希れなのではなかろうか。そんな彼らに問いかけてみる。何のためひとびとの暮しを豊かにするのかと。もはやこの問いに答えることのできる者はひとりもいないことだろう。

 ひとびとの暮しを豊かにすることそのものは決して目あてたりえない。それは豊かになったひとびとが、彼らのそんな暮しのうえに何か尊いものを築きあげるための手だてでしかありえないはずだ。しかしそこまでつきつめた目あてを今の世のなかのしくみは、はじめから持ってなどいなかった。もはやひとのために仕事があるのではない。仕事のためにこそひとがいる。何らかの目あてのために世のなかのしくみがあるのではない。世のなかのしくみのために、すべてがあるのだ。世のなかのしくみは今や何らの目あてをも持たず形ばかりとなってしまった。そこではひとりひとりの人間の考えなどまったく何の意味をも持たず、ただ世のなかのしくみばかりがひとびとの前に大きくそびえたっている。

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