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22才の頃に聴いた曲.9 [19才と22才の恋話]

(私が23才だった年にJポップについて論じた文章を掲載します)

    はっぴいえんど・オヴ・アメリカ

 日本のロックははっぴいえんどから始まったとするのが、おおかたの見方だ。このはっぴいえんどというのは、かなり不思議なバンドだった。音はアメリカの西海岸のそれを真似たという。しかし詞においては東京の下町の景色を、しめやかに描きだしていた。これは細野晴臣が、わざと松本隆にそういう詞を書かせていたものと思われる。かくしてはっぴいえんどの曲は、とてもエスニックな匂いのするものとなっていた。その意味でははっぴいえんどこそ日本におけるエスニック・ミュージックの先がけだったと言ってもいいのではあるまいか。

 だがこのはっぴいえんどは、早くも一九七三年に解散してしまう。四人それぞれがより自由に動いていくための解散だったそうだ。解散記念演奏会は Last Time Around と名づけられた。そしてこれより後は元はっぴいえんどの面々やこの Last Time Around に出た他のひとびとが、日本のロックをになっていくこととなる。すなわちシュガー・ベイブやムーン・ライダーズなどだ。

 はっぴいえんどをはじめとしてその頃の日本のロックは、とても土くさく日本っぽいものをやろうとしていた。ファニイ・カンパニイしかり。ジャックスしかり。たとえ音はUKやUSAのそれを真似ていても、詞においてはいかにも日本的な思いをうたいあげるのが常とされている。これは無理もない。そうでもしなければ、とてもひとびとに受けいれてもらえなかったのだ。なにせその頃ひろく聴かれていたのは吉田拓郎やかぐや姫であり、あるいはせいぜいチューリップといったところだったのだから。

 しかし日本っぽいものを取りいれてもなおロックは、いっこうに売れる気配を見せなかった。そんななかでかたくなにUKやUSAばりの音楽を守りつづけた者もいる。シュガー・ベイブから独りだちした山下達郎だ。彼は詞と音のいづれにおいても、黒人のリズム&ブルースや白人のポップスに根ざしたものをやっていた。しかし言うまでもなく、そんな彼の曲は全く売れない。詞が軟弱だと馬鹿にされすらしたそうだ。

 しかしやがて少しづつ様子が変わっていく。サザンオールスターズが世に出たのは、一九七八年のことだった。ロック・バンドであるにもかかわらず、彼らは歌謡曲のはたけへ進んでいく。そしてUKやUSAのロックと日本の歌謡曲とを巧みに組みあわせた音楽をやってみせた。しかし彼らも、はじめのうちはコミック・バンドとしてしか受けとめられない。そのことにいきどおった彼らはやややり方を改め、UKやUSAのそれと同じような曲をやるようになる。そして不思議なことに、これが受けいれられたのだ。

 このころ日本人の暮しぶりやものの感じかたが、いちぢるしくアメリカナイズされつつあった。それに伴ってUKやUSAの音楽が、広くひとびとの間で聴かれはじめていたためだろう。だからこそ一九八〇年に大滝詠一が出した A Long Vacationも受けいれられた。また同じ年に佐野元春も世に出ることができたのだ。佐野元春ははっぴいえんどの詞における「です-ます調」に抵抗を感じ、もっと素直にみづからの思いを歌ってもいいのではないかと思ったと言う。そしてそんな彼がそのアメリカナイズされた思いを素直に歌っても、それが素直に受けとめられるようになった。

 かくして今。いろいろなひとたちがUKやUSAのそれと同じようなロックを日本でやっている。しかも彼らの音楽が、広く聴かれるようになった。彼らの曲のうちのいくつかはUKやUSAのロックと比べても、決して聴きおとりしない。だがそんななかでUKやUSAの物真似でない日本みづからのロックを作ろうとする動きも、ようやくはじまったようだ。もちろんかつてのファニイ・カンパニイやジャックスのそれとは、全く違ったやりかたで。

 一九八五年六月十五日におこなわれた All Together Now 。この催しでとりを務めた佐野元春は、特別出演のサザンオールスターズと一緒にリズム&ブルースのスタンダードを歌った。しかし、桑田佳祐は言う。このような催しにおいてUKやUSAの曲をやるというのは、ひとむかし前のやり方でしかない。日本のロック屋さんが一緒に集まってやれる日本のロックがなくてはいけないし、またそれがようやくできつつあると。

 おなじ All Together Nowで再結成をはたしたはっぴいえんどもまた、その宣言のなかで言う。そろそろ日本のロックが、真のオリジナルをつくりはじめてもいいのではないかと。そして佐野元春は言った。日本のロックンロール・ミュージックは、まさにどんどん成熟しつつある。ボクはもちろんこれからもクリエイティヴな活動を続けていくけれども、そのことを忘れないでその中でいつもベストをつくしていきたいと。

 佐野元春にかぎらずいま日本でロックをやろうとする者は皆はっぴいえんどから始まる日本のロックの流れをふまえ、この流れに加わらなくてはならない。そしてこの流れをひきつぎ、その上で日本みづからのロックをつくりだしていくため努めるべきだろう。ボクはそのように考える。

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