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ツグミへの手紙.1 [16才と27才の恋話]

(当塾に掲載した「10年ごしのプロポーズ」で描かれている約一年間に、私はUSのケントへ留学していた高校生のツグミに宛てて百通ちかい手紙を書きました。厳密に言うとツグミの留学中に八十四通、ツグミが帰国してきた夏休みに十五通の、計九十九通です。

 ここではそれらの手紙のうち、テキスト・ファイルが残っており、しかもプライヴァシー面での問題がないものなどを選んで連載していくことにします。ただし「10年ごしのプロポーズ」に全文が引用されている手紙に関しては、掲載されている頁へのLinkを張ることにします。
 なお公開にあたってプライヴァシー保護などのため、一部の人名は「10年ごしのプロポーズ」に合わせて仮名に変えてあります)

 ツグミ。おはよう。元気かい。

 ツグミが一日のうちの何時ころ、この手紙を読むのかはわからない。そのときこちら東京が、いったい何時なのかもわからない。東京とシアトルとの時差は、七時間だそうだ。ケントも、おそらく同じだろう。いろいろ考えたあげく、書きだしの言葉は「おはよう」とすることにした。

 さわやかな朝。寝起きのいいツグミは(ということにしておかないと、絵にならない)後味のいい夢を見たあと、気持ちよい目覚めをむかえる。そして枕元のテーブルに一通の手紙がのっているのを見つけて、寝床に入ったままそれをとりあげ読みはじめるのだ。そういう設定で読んでもらうのが、もっとも望ましいのではなかろうか。そんなふうに考えてみたりした。

 もっともその時、東京はまだ真夜中のはずだ。逆にツグミが夜この手紙を読むとするとその時、東京は昼のさなかだということになる。こういうのって、なかなかなじめそうにない。ボクたちとツグミとの間には、つねに七時間分のへだたりがあるということか。まあ考えようによっては七時間など、ささいなものなのかもしれないけれど。

 八月二日の日付があるツグミからの手紙を読ませてもらった。なれない暮らしに若干めげているようで気がかりだ。そんなツグミのためにボクは、いったい何をしてあげればいいのだろう。ボクが何をしてあげられるだろう。ゲンタナツヨたちを皆ひきつれてケントまでおしかけ、ツグミを励ましてあげればいいのか。もしそうすることが本当にツグミのためだというのなら、いつでもやってみせるぜ。ひまや金の都合は、どうにでもする。

 でも、おそらくそれは正解じゃない。USAへの留学は、ツグミが自ら選んだことなのだから。おそらくツグミは、いろいろなことを独りで乗りこえていかなければならないのだろう。みづから独りの力で、誰の手だすけをかりることもなく。したがってツグミのためにボクがしてあげるべきなのは、むしろ何もしないでいることだ。逆説的な言いまわしに聞こえてしまうかもしれないけれど。

 まあこんなしょーもない手紙でよかったら、いつでも書くよ。愚痴や泣き言をいいたくなったら、いつでも手紙をおくれ。いくらでも聞いてあげよう。でもひとしきり愚痴を言い飽いたなら、気持ちをいれかえ立ちあがってほしい。すべてをみづからの手できり拓いていく、そのために。

 君はツグミだ。風はやんだら風じゃない。ツグミは飛びつづけなければ、ツグミじゃない。あれは、まだ夏前だったかな。ツグミが留学するという話をゲンタから聞かされた時は、とてもおどろいた。よくも思いたったものだなあと。
 こまかいことやへんなしがらみにとらわれず、みづからの翼で思いきりよく天翔ける。そんな姿こそボクから見たツグミのイメージだ。Alis volat propriis.(彼女は自らの翼で飛ぶ)。ツグミには、いつまでも元気よく飛びつづけていてほしい。

 このあいだ、おかしな夢を見た。ボクみづからがUSAの西海岸へ留学したという設定の夢だ。やはりツグミのことが頭にあって、そんな夢を見たのだろう。
 USAへついたあくる朝、ボクはベッドのうえで目覚める。しばらくの間、みづからがどこにいるのかわからない。だがやがて、みづからがUSAへ来ていることを思いだした。

 気をとりなしベッドから出てカーテンをあけ、窓のそとを眺める。あたりは一面の湖だ。ボクの寝ていた建物が湖の、すぐほとりに建っていたということだろうか。そして湖には、さまざまな水鳥がおよいでいた。ところが。何ともおどろいたことに。見覚えのある鳥が、一羽もいない。湖はボクが見たこともない鳥ばかりで埋めつくされている。こんなことって日本でなら、決してありえないはずだ。これはたいへんなところへ来てしまったな。見知らぬ国へ来たことを、この時はじめてボクは身にしみて思い知らされた。そういう夢だ。

 だが、じっさいにはUSAにも日本と同じ鳥はいる。同じ樹があり、同じ花が咲いている。たとえ見知らぬ国にいようとも、そんな鳥や樹や花がいてくれたなら心なごむにちがいない。ツグミのまわりを見まわしてごらん。見おぼえのある鳥はいないかい。あるいは見おぼえのある樹や花はないかい。もしそれがひとつでも見つかったなら。おそらくそれが慣れない暮しのなかで心の支えとなってくれることだろう。すべては、そこからはじまるはずだ。

 何だか説教くさい手紙になってしまった。なにせエアメイルをだすなんて、ボクにとっても生まれてはじめてのことだ。思わず気負ってしまったのにちがいない。
 今日のところは、とりあえずこのへんで。このつぎは、ぜひとも元気な声をきかせておくれ。
    八月二十四日

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つぐみへの手紙: 高校生との心温まる交流


10年ごしのプロポーズ  上: ドラマティックな恋愛実話


10年ごしのプロポーズ  下: ドラマティックな恋愛実話

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