引き延ばされた学生時代.6 東大の教授に学ぶ

　ただし入学する前の私は放送大学に対して、いくつか不安も感じていました。
　なにしろ実際の教室で教員と対面して受ける講義は少なく、多くの講義が放送の形で行なわれるのです。
　それでも大丈夫なのだろうか、深く掘り下げた教育は行なえないのでは――そんな不安を私が抱いていたのは、無理もないことだったと言えるでしょう。

　しかも放送大学は、国が行なう事業です。したがって国にとって都合のいい内容が教えられるのではないか、というような不安もありました。
　しかし実際に入学し講義を受けてみたところ、それらの不安のうちの多くは緩和されたのです。

　確かに多くの講義が放送の形で行なわれ、教員と直に言葉を交わせる機会が少ないことによる不都合はありました。まだ開校したばかりのせいで、いろいろな体制が整えられていないことによる不都合もありました。
　ちょっとレヴェルが低すぎるんじゃないのかな、と首を傾げざるをえない講義もあったりしました。
　しかし中には、私が思わず感心させられてしまったほどレヴェルの高い講義も多かったのです。
　そしてそれは、教授陣の顔ぶれによる部分が大きかったように思われます。

　当時の放送大学の教授陣には、日本で一流とされている大学の教授だった人たちが多く含まれていました。
　東京大学から転任してきた教授ですとか、東京大学と放送大学の両方で講義を受け持っている人なども多かったのです。
　そして私が実際に彼らの講義を受けてみたところ、「やはり東京大学の教授陣は全般にレヴェルが高いようだな」と感じさせられたのです。

　もちろん他の大学から来ている教授の講義にも、内容の濃いものはありました。一方で東京大学から来ている教授の講義にも、内容の薄いものはありました。
　しかし全体的な傾向として、東京大学から来ている教授の講義にはレヴェルの高いものが多かったようです。

　先述のとおり、かつての私は東京大学にまつわりがちな権威主義を嫌っていました。
「法政大学の哲学科には有名な教授が多く、決して東京大学に引けをとらないはずだ」などと考えたりもしていました。
　しかし実際に東京大学から来ている教授たちの講義を受けてみた結果、「どうやら私は東京大学に対して、食わず嫌いをしてしまっていたようだな」と感じさせられたのです。

　しかも放送大学では当時、単位の認定に対しても厳格な教授が多かったようです。
　なにしろ放送大学の学生は、年輩の社会人の割合が多くなっていました。四年間で卒業して就職することを考えている若者の比率は、少なかったようです。
　そのためか教授陣も、わりと簡単に学生を落第させる傾向があったようなのです。

　学生を校舎に来させて講義を行なう普通の大学では教室の定員がありますので、多くの学生を落第させると新入生の人数を減らさなければならなくなってしまいます。私立大学の場合は収められる入学金の総額が減ってしまうので、経営にも影響が出るでしょう。
　しかし放送大学の場合は、それらの心配が少なくて済みます。
　そのせいもあって、わりと単位の認定が厳しくなっていたのでしょう。
　その結果、欧米にある一部の大学のように「入学するのは簡単だけれど、卒業するのは難しい」という状態になっていました。
　幸い私は、全ての科目を平均するとＡの少し下ぐらいの成績で卒業することができたのですけど。

　この放送大学で私は、資源や生態学などに関する講義も受けました。
「人類が今の調子で資源を浪費し自然環境を破壊しつづけた場合、人類の絶滅は避けられないと考えている学者が多い」と聞かされたのも、この頃だったと思います。
　ですので「その危険を訴えるための文章を書いて人々の注意を促す立場になりたい」との思いも、さらに強められる結果となりました。
（「好きな生き方を選べる好機」より）

　私の放送大学での勉強に関しては『22才、生き方を探す旅』に詳しく書かれています。

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