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女性の快感は置き去り? [真に役立つ恋愛本を]

「若干の前戯で女性の膣が濡れたらペニスを挿入してピストン運動を行ない、数分もしくは十数分後に射精して終わる」というセックスをしている恋人同士や夫婦が多いようだ。しかし女性の側は、このやり方だと必ずしも充分な快感を得て満足できると限らない――そんな話を私は当塾の、「下品でない性の本を紹介」などの頁で書かせていただきました。
 しかしたとえば「巨根が快感との思い込み」の頁でご紹介した『ファニー・ヒル』などでも、もっぱら男性の側がピストン運動をする性交が描かれています。

 一方「多くの女と性交しまくる」の頁でご紹介した『金瓶梅』では、たとえばアナル・セックスなども出てきます。やはり第三書館から出版された『ザ・金瓶梅』に収められた村上知行による訳で引用してみましょう。ただし文中の傍点は省かせていただきます。

 女は百パーセント裸体であった。寝台の一端に腰を掛け、首をねじ、おのれのまっしろな大腿を抱きあげて斜めにわが膝の上に置き、底まで柔らかにできている紅ばら色の寝靴にはきかえているところであった。
 西門慶がそれを見てふらふらとした。
 まず七つ道具を求める。
 金蓮が敷布団をトンとたたいてみせる。
 西門慶は、その下に手をつっこみ、そこに用意されているものを取り出した。
 金蓮をひしと胸に抱きしめ「後庭花がよかろう」と言う。女は妖然と目を藪にしてにらんだ。「恥知らず!」と、そっとささやいて聞かせた。「寃家、いつも書斎で覚えがあるんでしょう。書童を相手に」
 「よせよ、なに言ってんだ、くだらない」
 と西門慶は笑いだした。
 ただちに実行を迫ったものだ。
 女は怖れをなしていた。いくらなんでもこの大きさでは、と言うためらいがないではなかった。
 西門慶としては、しかし、乗りかかった船だった。船がいくら漏水しても、ひっくりかえっても、わが意をとおさずにはおかない気だった。結局、女に錯乱的な興奮を強いた。眉をしかめさせる。口につばきの泡をふくます。女はハンカチを口に咬んだ。歯ぎしりをした。このハンカチが破れる、と言う。男は、心配ないよ、と言った。ハンカチぐらい幾らでも買ってやる、ついでに緋色の紗の晴れ着も新調させてやる、と言い足した。
 女は気の遠くなりそうな流し目でにっこりする。
 なにか言おうとして言い出せず、喉の奥で呻吟が聞こえるばかりであった。男はそのあいだにたびたびからだの位置をかえた。女はそのつど、蛇のように身をくねらした。
 星眼もうろうだった。
 柳の腰のゆるやかな転換だった。
 香のひどいからだの肌の誘惑だった。

 しかしこの引用部分の文面ですと、はたして女性の側が快感を得ていたのかは疑問が残ります。
 さらに『金瓶梅』には、西門慶が金蓮の膣を使って遊ぶ次のような場面も出てきます。文中で西門慶が話している相手は、「多くの女と性交しまくる」の頁で引用した部分にも登場する春梅という女性です(引用に際して文中の「萄葡架」という誤記を、正しく「葡萄架」に改めました)。

 西門慶は、さきほど金蓮の紅い靴をぬがせていた。纏足用の紐をほどいて、それでもって、かの女の両足を、両の太股を、片一方ずつ、コンパスの脚のように広げて葡萄架に吊しあげていた。どこからどこまで丸見えの奇観である。金蓮は、しかもそのまま、熟睡のていである。
 「これ、なんてかっこう? 昼の日中に……。もしも人がきてごらんなさい。恥かしいわよ」
 「お前、こっちにくるとき庭の門に鍵をかけてきたのかい?」
 「ええ、かけてきましたわ」
 「愛いやつ、愛いやつ……。褒美に珍芸をみせてやろうか」
 西門慶が酒を呷る。氷の水鉢に浮かしてあった李の実を手に取った。弾丸のかわりだ。ぽんぽんつづけて放った。的は凹んだ底なしの的である。さっきの遊びは『投壺』であった。こんどのは『肉壺』とでも言おうか!
 西門慶がさすがにくたびれたのだった。かたわらの寝椅子にもたれてうたた寝をはじめた。
 春梅が、頃あいを見て逃げ出した。
 西門慶はしばらくして、やっと眠りから醒めたのである。
 金蓮はまだ眠っていた。両足を吊られたままであった。
 なんという太股の大胆な魅力であろうか!
 おりから春梅がいなくなっている。
 西門慶は、またしても興奮させられた。李の実の冷やっこいのを、凹みのなかに、幾つはいるか、はいるだけ詰めこんだ。要するに一種のサディズムだ。さすがの剛のものの金蓮が気絶したくらいである。

 これも西門慶の側が面白がっているだけであって、金蓮の側は別に気持ちよくなさそうですよね。
 やはり男性が書いた作品は、どうしても男性の側の快感や興味が優先されて、女性の側の快感は二の次になってしまいがちなのでしょう。

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